暁ノ華嫁

○襲撃と攪乱


 だが、その幸せな日々は、唐突に崩れる。

 神域・暁宮に、黒き羽が舞い降りたのだ。

 「白雪――白雪っ!」

 凍りつく空気。黒い羽を背に、白い装束を纏った姉・美鶴が現れる。

 「やはり、あなたが……!」

 白雪は叫ぶが、姉の目はもう、かつての美鶴ではなかった。

 「あなたなんかが、神の花嫁になるなんて……許さない……っ!」

 美鶴は封印から得た力で、神域に穢れを撒く。天から星が落ち、花がしおれる。

 夜暁尊が剣を手にする。

 「穢れ神の加護を受けし者よ。貴様は、神をも冒涜する存在だ」

 「黙れ。あんたが選んだのは、わたしではなかった……それがすべての過ちよ!」

 闇の力と神の力がぶつかり合い、神域は激しい戦の場となる。



四 決意と犠牲

 白雪は、倒れた神々を看ながら、決断する。

 「わたしが……止めます」

 「白雪、行ってはならぬ! それは神々でも厳しい!」

 「でも、姉様は……まだ、救えるかもしれません。
  神ではなく、“妹”のわたしなら」

 白雪は、ただの人として、美鶴の前に立った。

 「姉様、どうか……思い出してください。
  昔、一緒に花を摘んだ日、わたしに笛を教えてくださったこと……」

 「……っ、やめて……っ!」

 美鶴の力が暴走する。

 だが、白雪はその手を握った。

 「わたしは、あなたの妹です。どれだけ憎まれても、忘れられなくても……」

 その瞬間、美鶴の中の穢れ神が叫びを上げる。
 白雪は、姉を抱いたまま、闇に呑まれかける。

 そこに――夜暁尊が駆けつけた。

 「白雪……っ、もう、手放さぬと誓ったのに!」

 神の力が迸り、穢れ神を引き裂いた。

 美鶴は崩れ落ち、白雪もまた力尽き、静かに倒れた。



○祈りの果てに


 白雪は、神域の白い花畑で、意識を取り戻す。

 傍らには夜暁尊。神でありながら、彼女の手を握り、震えていた。

 「そなたを、失いたくなかった……」

 「わたし……生きているのですね」

 「もう、そなたを巻き込みはせぬ。神嫁の契りを解いても――」

 「嫌です。それでも、わたしは、あなたの隣にいたいのです」

 白雪の瞳は、もう迷いなく夜暁尊を見ていた。

 「ならば……共に行こう。神も人も越えて――」

 そして、ふたりは静かに唇を重ねた。

 それは、ただの契約ではない。
 魂と魂が重なる、本当の愛の始まりだった。