○霞の村に生まれた少女



 霞(かすみ)郷――帝都のはずれ、霧が絶えずたなびく辺境の村。
 そこに住む名家・白月家には、ふたりの娘がいた。

 姉の美鶴(みつる)は、村一番の美しさと評され、聡明で器量よしと誰もが称える娘。
 妹の白雪(しらゆき)は、同じ家にありながらも粗衣を着せられ、奉公人同然に扱われていた。


 「白雪、早く掃き終えなさいな! お客様が来る前に、厩(うまや)まで掃除するのを忘れないように!」

 「はい、姉様」


 白雪はうなだれながらも、静かに笑っていた。なぜなら、村の誰も知らぬ――彼女の瞳にだけ、神の気配が見えていたからだ。