気がつくと深子(みこ)は木とは違う土の匂いを感じていた。

上の窓から(わず)かな光が入ってきてようやく深子(みこ)は自分がゴザの上に寝てたと気づくが、着せてもらった桔梗色の着物は土埃(つちぼこり)が付き、こんな場所にいた事も驚いたが着物を汚した事にも落ち込んだ。

「ここは?」
牢に入ってる事を知るが確か深子(みこ)に代わって女中が淹れたお茶を飲んでから記憶がない。

「まさか、ここは屋敷の中なの?」
こんな場所があるなんて知らなかった。

「そうよう。
今までアンタに使ってなかったのよ
感謝なさい」

突然、扉から舞華(まいか)蝋燭(ろうそく)を持って入って来て驚いた。

「あの日から何日経っているの?」
閃羅(せんら)を待たせていたままの深子(みこ)危惧(きぐ)した。


「彼なら今夜ここに来るわ」
舞華(まいか)に言われほっとしたのも束の間

「でもここまでは来ないわよ」
と彼女は笑う。

どういう事だろう?

「姉様私ね、雷龍(らいりゅう)様と結婚するのよ!」
「え?」

意味が分からない。
かたちだけでいいけど彼と(ちぎ)りを交わしたのは深子(みこ)だ。

「でも、私は彼と」
(ちぎ)った、なんて誤解されそうだ。
言えない。

「一緒にいてほしいって言われて」
と話すが舞華(まいか)はそんな言葉は無視だ。

「あら。でも手紙を送ったらちゃんと喜んで応じてくれたわ」

袖から出して見せられた手紙には確かに人の字でちゃんと「雷龍(らいりゅう)」と書かれていた。

「嘘」
馬車から降りる前まで深子(みこ)は彼と仲つまじく話していたのだ。


「嘘って何よ。
アンタ私に意見する方だったかしら?」

ただの生意気じゃないスウッと冷たい視線を舞華(まいか)深子(みこ)に浴びせる。

「だって猿田彦(さるたひこ)様は?」

そうだ。家には猿田彦(さるたひこ)様が家には来るはずだ。
深子(みこ)は問う。

「破談にしてもらったの」
「そんな!」

繰り返された末裔(まつえい)同士の結婚がいくら舞華(まいか)でも破談にできるものなのかと深子(みこ)は思った。

でも手紙には彼の大きな(うろこ)が付けてある。

(手紙は本物?やっぱり選ばれるのは舞華(まいか)なの!?)

彼女は今夜って言った。

「じゃあ私、今から着付けなの」
もう行くわねっ。

舞華(まいか)は楽しみで浮かれていて深子(みこ)がどうなるかなんて勝手らしい。

「待って!」
深子(みこ)の声なんて聞こえる、いや聞くわけない。

「嫌・・・」
きっと作り話だ。

深子(みこ)は牢の中、そう思うしかなかった。