舞華(まいか)の考える通り深子(みこ)があの街を闊歩(かっぽ)する度胸はなかった。

屋敷に行った日から半月は過ぎただろうか。

深子(みこ)閃羅(せんら)は隣の街を歩いていた。
「やはり人が多い」
人目につかないよう金髪を隠したいがどのように隠そうかと彼は悩んでた。

「少しあちらで休憩しましょうか?」
深子(みこ)に気をつかわれ道の端にある長椅子に2人で腰を下ろしていると深子(みこ)の目の前に
「すみません。道を教えてくれますか?」
とお(ばあ)さんに声を掛けられた。

「近くですね。私ご一緒します。
閃羅(せんら)様はここにいてもらっていいですか?」
すぐ戻りますと言われ
「分かったが深子(みこ)も迷わず戻ってくるのだぞ」
と言われ心配症な彼の言葉に照れる。

「大丈夫です。お使いでこの街は行き慣れてますから」

お出かけの間違いではと閃羅(せんら)は思ったが深子(みこ)は行ってしまった。

やれやれと椅子に座っていると、今後は彼の足元に綺麗な下駄が見えた。

「ごめんなさい。道を聞きたいのですが」
今度は若い華やかな娘が地図を見ながら道を(たず)ねた。

「すまない。私はこの街はあまり行き慣れなくてな」
力不足を謝る。

「気になさらないで・・・痛!」
紙で切った娘の手には血が(にじ)んでいた。

「大丈夫か」
閃羅は手巾(てきん)を出して使えと娘に出した。

「まあ、そんな上等な物で血なんか拭けませんわ」
「構わんよ」
閃羅(せんら)は娘の指にそれを当てがい止血する。
「嫁入り前の娘だ。気は使った方がいい」
と言われ娘はまあ!と声を上げる。

「返さなくていい」
そう言うと閃羅(せんら)は娘を残し人混みに消えていった。

しかし娘は人混みの中で彼と落ち合う深子(みこ)を見て怒りが止まなかった。

娘の正体はもちろん舞華(まいか)だ。


(なによ!!)

実家ではあり得なかった深子(みこ)の着飾った姿の横で見目麗しい男が「深子(みこ)、そろそろ角を出したいのだが」と言う彼をあやす姿を見て 
(今、角って言った?)
と聞いて舞華(まいか)は彼が本当に龍だという事を知った。

(てっきり、アイツが龍から逃げた先で色男と結ばれたと思ったじゃない)

それはそれで腹は立つが、今見た事が本当なら深子(みこ)の旦那は間違いなく雷龍(らいりゅう)だ。

その横で笑う深子(みこ)を悔しく、いや恨めしいと言い難い感情が舞華(まいか)には酷く渦巻(うずま)いた。



屋敷に戻ると早かったじゃないと言う母に
「私、結婚したい人がいるの!」
と彼女は告げた。