ウズメの末裔令嬢は龍に恋し舞う

ダダダダダダ!

翌日、早く目が覚めた深子は日が出るのを待ち遠慮がちに女中に朝食(あさげ)を与えられていると、居間の外から女中達とは違う男の人間が走る音に驚いた。

御殿の下男(げなん)が一大事と駆けているのだろうかと深子(みこ)は心配したが違った。

スパン!と今の開戸を両手で開け、入って来たのは寝巻き姿の長い金髪の真ん中に立派な角を生やした美しい男性だ。

女中達はきゃあ!と驚き、深子(みこ)も呆気に取られる。

「おい、そう騒ぐな私だ、私!」

「!、閃羅(せんら)様?」
その口ぶりは間違いなく彼だった。

「起きたらこの姿でな。
鏡が無くて顔が見えん。

深子(みこ)、私はどんな顔をしている!?」

近づいて手を握られ言われても見た事ない眩しい色男は深子(みこ)(そら)した目を回し
「あ、あの・・・とても素敵です・・・」
そうとしか言えない。

「そうか・・・。ならよかった」
閃羅(せんら)が落ち着くと女中達は深子(みこ)との光景をほうっと見ていた。

「契りを結ぶと神力が増えると父は言っていたが、まさかすぐにそうなるとは」

閃羅(せんら)は女中に鏡を見せられ自分の人型の顔を見ておお!と確かめると角も消せるかやってみる。

「よし、消えた。これで人の目を気にしなくてすむ。
深子(みこ)といろんな場所にいけるかもしれない」
そう笑う彼に深子(みこ)は昨日みたいに胸が鳴る。

深子(みこ)、行きたいとこはあるか?」

(行きたいところ・・・)

少し考え頭に浮かんだのは深子(みこ)の屋敷だった。

「実家の屋敷、でしょうか・・・」

「そうか。
気になるか。

(さら)ったも同然だったからな。
そなたの親にも顔を見せたら安心する」

そう言いつつ、閃羅(せんら)は少し悲しそうだ。

自分がこのまま屋敷に帰ったままここには戻らないつもりだと思われたかもしれない。

「いえ、屋敷の中には入らないのですが・・・」
「何故だ?」

「・・・」
屋敷での扱いを深子(みこ)はまだ正直に言えない。

目を伏せる深子に悲しい気配を閃羅(せんら)は感じた。


「少しだけ妹の、舞華(まいか)の舞を見たいのです」

家に未練はない。

(もっと私も舞華(まいか)みたいにちゃんと閃羅(せんら)様の前で舞ってみたい!)

深子(みこ)は舞が好きなのだな」
それはやはりそなたが舞の神の末裔(まつえい)だからだろうかとフッと笑う。

「分かった行こう。
その前に身支度だな」

「え?」
そう聞く女中達が任せて下さいと言わんばかり張り切る姿を深子(みこ)見た。


「こんなに着飾ってもらって良いのでしょうか?」
着物に着替え、金の髪飾りまで付けた深子(みこ)は龍の姿で飛ぶ閃羅(せんら)に捕まって聞く。

「ああ、よく似合っているぞ」
雲間から下り先の方に深子(せんら)の街が見えてきた。

(ふもと)に降り馬車に乗り久しぶりに屋敷の側で来ると緊張が走る深子に閃羅(せんら)
「これを渡しとこう」
と小さなルーペを渡した。

「これは?」
「私から生み出した神具(しんぐ)だ。
横を向いて(のぞ)いてみろ」

彼に言われた通りにすると、馬車の中なのに外の様子が映る。

「わあ」
人の技ではできない物に深子(みこ)はしばらくそれを見ていた。

「屋敷の中に入らず舞は見れないだろう」
使うといい。

私は馬車で待っておく。
そう言って閃羅(せんら)深子(みこ)を送り出した。


屋敷の庭が見えるよう、向かい側の家と家の間に身を深子(みこ)は早速ルーペを使う。

いつものように内側からは楽器の音が流れ、庭では舞華(まいか)の練習風景が見えた。

(今の舞華(まいか)ならいつ猿田彦様を迎えてもおかしくないわ)

足の振り付けに力を入れたい深子(みこ)はその場で動きはできないものの深子(みこ)は真剣だったのかルーペを覗きながらつい前屈みになっていると横から

深子(みこ)様?」
と聞き慣れない声に驚いた。

「あなたは、もしかしてリク?」
「はい。やっぱり深子(みこ)様だ!綺麗な格好だったから分からなかった」
「私も。こんなに大きくなって」

敬語なんて使わなくていいのにと思ったが親に言われてるのだろう。

「俺、もう12ですよ」
リクの子供じゃないとむーんとした表情は格好よく思われたいという年相応の仕草に成長を感じ、深子(みこ)はますます感慨深くなった。

「中に入らないんですか?」
彼の質問に
「え、ええ」
深子(みこ)は誤魔化しながら後退りする。

「ふーん?」
「じ、じゃあまた」
長居(ながい)できないと深子(みこ)はリクと別れ、早々と奥にいる馬車に戻る事にした。

彼女に手を振られて呆気(あっけ)に取られるリクはなんだったんだと頭を(かし)げた。

「なんか騒がしいと思ったら」
リクの後ろからキンキンした声がする。

(げ)
練習着の舞華(まいか)だ。

舞華(まいか)様、こんにちは〜」
渋々リクは心の中でやべえと思い頭を下げる。

彼は深子(みこ)と違う彼女が苦手だ。

「もう、近所の女子供じゃあるまいし。
あなたみたいな年の子まで屋敷の前でうるさくされても困るのよ!」

勘弁してよと言う彼女にリクは
「いや、さっき深子(みこ)様とお会いして」
と溢す。
深子(みこ)!?」

ギョッとする舞華(まいか)
やばかったか!?とリクは取り乱した。

「どっちに行ったの!?」

そういえばとリクの頭によぎったのは舞華(まいか)に使われてた深子(まいか)の姿だ。

「あっち!」
深子(みこ)が向かった先とは違う屋敷の前の道をリクが指差すと舞華(まいか)はそのまま指差す方向に駆けて行った。

残されたのはなんだ?と彼女をポカンと見つめる事しかできないリクだけだった。



「どうだ家の様子は?」
「知り合いに会ってあまり見れませんでしたけど大丈夫でした」

馬車のすぐ戻ってきた閃羅(せんら)深子(みこ)はそんな会話をしていた。

そうして2人の住処に着いた頃
「もう、どこに行っていたのよ」
玄関先で心配したわよ練習中に抜け出してと母に言われ、息を切らした舞華(まいか)
「それどこじゃないわ!」
と余裕がない。

(てっきり、あの子は雷龍(らいりゅう)に食べられたかと思ったけどどういう事?)

深子(みこ)がこの世にいるはずがない、はずだ。

(どこかの家で(かくま)ってもらってる?)
しかし噂好きな街人が隠し上手に思えない。

(そもそも雷龍(らいりゅう)なんて本当にいるのかしら?)

深子(みこ)をいいつけどおり追いやった後、確か書物に書いてあった通り葬式は減ったがーー。

舞華(まいか)雷龍(らいりゅう)を見ていないから確証がない。

リクの言葉を思い出す。
彼が深子(みこ)を気に入っていたのは知っている。

(地味で舞もろくできないくせに!)   

子どもは正直だ。

あの子はやっぱりそうなのだ!


口では年寄りや女達は不吉だ地味だというが子ども達と話す姉が密かにその彼らに好かれているのを舞華(まいか)は知っている。

「あんな塀の向かいでコソコソ何を」
と考えたがそれにも察しがついた。

(あの子、いやアイツは必ずまたここに来るわ)

(この街はみんな噂好きだもの)

そこを闊歩する度胸は深子(みこ)にあるとは思えない。

「案外近くにいるかもしれないわね」
こういう時、舞華(まいか)は頭が()え渡る。

彼女の口の端は上がっていたが、肝心な深子(みこ)がそれを知る事はなかった。