ウズメの末裔令嬢は龍に恋し舞う

はずだったというのは深子(みこ)舞華(まいか)が16になる年の初夏の夜、豪雨と一緒に『それ』はどこからともなく屋敷を訪ねて来たお尚の伝言としてやって来た。

雷龍(らいりゅう)との縁談だ。

「すまない。舞華(まいか)
父の言葉でいつもの夕食は葬式みたいな空気になった。

雷龍(らいりゅう)?)
引きつる顔の舞華(まいか)と同じ場所に夕食(ゆうげ)の準備としていた深子(みこ)は龍という父の発言に驚いた。

母は舞の稽古が終わってその話を父から聞いたらしく、先程から「あなた嘘だって言ってちょうだい!」と取り乱している。

父曰く昨夜、山の(ふもと)に住む寺のお尚が酷い家鳴りに震えていると窓の外にギラギラ光る目玉が見えたそうだ。

震えるお尚に目玉の主は
細女(うずめ)の娘はどこだ?』
と聞いた。

知らない、知らないとお尚が言うと目玉の主は
『おかしい。
確かにこの地に天鈿女(あめのうずめ)末裔(まつえい)がいると聞いていたのだが』
本当に知らないのか?
と目玉はお尚に聞くが彼は震えて何も言えない。

仕方ないと龍は判断したのかお尚に
『娘がいたら連れて来い。
これは彼女の家との約束だ』

「は、ええ?」
歯を震わせていたお尚は驚く。

『私は雷龍(らいりゅう)
この地を守りたくば細女(うずめ)の娘を花嫁として私の元に来させるのだ』

娘を探すようにと龍はお尚に言うとその場から山の奥へと消え去った。

雷龍(らいりゅう)と名乗る目玉の正体は雷や天候を操る龍だ。

お尚は日が明けて嵐が止んだのを確かめると、すごすご細女(うずめ)の屋敷へと向った。


雷龍(らいりゅう)!?」
深子(みこ)達の父、和彦(かずひこ)はいきなりのお尚の来訪に驚いた。

「ああ、確かに聞いた事はあった。
しかしあれは古い言い伝えでは!?」

何かの間違えではないのかと父はお尚に聞くが間違いないらしい。

「これは龍が落としていった(ひげ)です」
父はお尚が巨大な何かを持っているのを不審に思っていたが、(ひげ)だとは驚いた。

父の座っている後ろの畳には巨大な猫みたいなのがそれだ。

「嘘よ・・・」
ね、お父様そう言ってと舞華(まいか)狼狽(うろた)えるが彼は何も言わない。

言えないのだ。

これには更に母はどうするのよあなた!となじる。

「蔵にあった書物を探した。
確かにそう記してある
お前だって聞いていただろう!」
普段は養子だから母に強く出れない父もこの時は違った。

「だからそれは古い先祖の噂と思っていたのよ!」

夫婦互いに錯乱してるのか、これでは話の(らち)があかない。

その光景に舞華(まいか)はギリっとやるせなくなって爪を噛む。

しかし、その目線はいつの間にか深子(みこ)に向けられていた。

「そうだわ!だったらお姉様が雷龍(らいりゅう)に嫁ぐべきよ」

ザッ!とその場にいた全員の視線は深子(みこ)に一斉に集まった。

「え?」
(私が?嫁ぐ。雷を操る龍に?)

結婚なんて考えた事なかった深子(みこ)は驚いた。

「お姉様だって鈿女(うずめ)末裔(まつえい)じゃない。ねえ」

それは、(うなず)きなさいという事だろうか?

(で、でもそうしたら母様が許すかしら?)

母をそっと見ると彼女の口の端は上がっていた。

「ねえ、そうよね」
舞華(まいか)は今度は2人に賛成を得ようとする。

「ええ。そうね」
「そうだな」

父と母は本当にほっとしただけの返事をした。
口元は笑っているが目は違う。



こうして深子(みこ)雷龍(らいりゅう)の花嫁となる事が決まってしまった。