序章

(ーーやっぱり、私は「こう」なるのだわ)

ゴウゴウと地鳴りがし、もうすぐここに雷龍(らいりゅう)が来る事を滝の側で深子(みこ)は悟った。

「だったらお姉様が雷龍に嫁ぐべきよ」
妹の舞華(まいか)雷龍(らいりゅう)との縁談を知った時、確かに深子(みこ)にそうでしょうと笑った。

こんな時だけ舞華(まいか)深子(みこ)を『お姉様』と呼ぶ。

ところどころ()り切れ、変色した古い白無垢(しろむく)ーー。

だがその(つや)やかな格好の下は下駄ではなく素足に縄を(くく)られ先には石に巻きついている。

今から雷龍(らいりゅう)の花嫁となる彼女を逃がさない為だ。

最期(さいご)の時かもしれないのに、深子(みこ)が目を(つめ)ると脳裏に浮かぶのは舞華(まいか)の美しい舞だった。

最愛な人の前で舞う細女(うずめ)の家に伝わる『婚礼の舞』だ。


(一度でいいから私も踊ってみたかった)


足を縛られ叶わない今、目を開くと瞳には巨大な龍の影を(とら)える。

(ーー私も、最愛の人の為に舞ってみたい!!)

願うと同時、ビュッ!と目の前に風に拭かれ角隠(つのかく)しが取れ、目の前には巨大な龍の顔が深子(みこ)の前に現れ地が(うな)るような声で喋った。

「そなたが細女(うずめ)末裔(まつえい)か?」

確かに龍は深子(みこ)にそう聞いたのだった。