◇玉座の影


 大奥には、美しい女が多すぎる。

 漆黒の髪、白粉に彩られた頬、紅を引いた唇。
 誰もが「選ばれる日」を夢見て、競い、憎み合っている。

 その中心に座するのが、若き将軍・徳川清暉様。
 そして、わたし――桂木志乃は、影の女。
 姉の名を借りて咲く、偽りの仮妃。

 だが、その“影”の名は、日を追うごとに力を持ち始めていた。

「最近の上様、蓮華様の部屋ばかりに通われてるんですって」

「でも、蓮華様ってほんとにあの蓮華様なのかしら?」

「お顔、以前と違うって噂よ……」

 ささやかれる声。笑う女や睨む女、探る女たちがこちらを見る。

 わたしは、見世物だった。