◇祝言の宣言


 数日後、将軍の口より正式な勅命が発された。

 ――桂木志乃を、御正室・御台所として迎える。

 それは史上まれに見る「身分を越えた抜擢」であり、かつての姉を差し置いての大逆転でもあった。

 だが誰も、異を唱えなかった。

 志乃はすでに、自らの力で女たちの信を得ていた。
 偽りの仮面を脱ぎ、誠実に、真っ直ぐに立ち続けた日々が、ようやく報われたのだった。



  ***

 白無垢に身を包み、緋毛氈の上をゆっくりと進む志乃。その隣には、将軍としてではなく、ひとりの男としての清暉様がいた。

 庭には花が咲き乱れ、鳥がさえずり、風がふたりの袖をやさしく揺らした。
 

 「……ずっと夢の中にいるみたいです」

 「夢ではない。これは、おまえが手に入れた現実だ」


 将軍様の言葉に、志乃は涙をこぼしそうになった。
 あの陰のなかで、影として咲いていた自分が、今、こうして陽のもとで花開いている。

 もう誰の代わりでもない。
 名もなき妹でも、誰かの影でもない。

 「わたしは……桂木志乃です。あなたの、妻です」