◇妹の牙
わたしは、膝をつくことはなかった。
――逃げない。
「では、将軍様の御前で、真実を語らせていただきます」
堂々と申し出たその姿に、奥女中たちも驚いた。
証人となった梅と、沈黙していた小女・あやめの証言により、冤罪は晴れた。
だが、それだけでは終わらない。
将軍様は、女中の背後にいた者に目を向けた。
「その者に命じたのは、誰だ?」
女中は震えながら名を告げる。
「か、桂木……蓮華様で、ございます」
その場に、静寂が走った。
翌朝、姉がわたしの部屋を訪れた。
赤い陽差しが、まるで刃のように障子に差し込んでいる。
「志乃。あんたは……もう引くつもりはないのね」
その声には、怒りも、憎しみもない。
ただ、姉妹という仮面を脱いだ女としての、静かな怒りと決意。
「はい。姉上の後ろに立つつもりは、もうありません」
その答えに、蓮華はかすかに笑った。
「なら、わたしも全てを賭けるわ。あの人を手に入れるために」
「同じです。――わたしも、命をかけて、あの方の隣に立ちます」
二人の女の目がぶつかり合う。
姉妹の絆は、ついに断たれた。



