今日もヘリコプターが物資を運んできた。
あれだけ暑かった日々がうそのように、雪がこわれかけた町に降っている。
お父さんの説明によると、内核の爆発により、海の水位はまだ高いままだけれど、温暖化は鎮静に向かっているそうだ。
この町以外でも、高い場所に避難した人は無事だったらしく、いい意味でお父さんの説は外れたことになる。
SNSでは過去のお父さんのインタビューが、予言者のように持ちあげられている。『手のひら返しもいいとこだ』と、お父さんは不機嫌。お母さんは気にしてないみたい。
「やっぱりここにいたか」
夏海が屋上に姿を現した。
「昨日、修繕が終わったところ。夏海は今日戻ってきたの?」
「実家に戻るなんて久しぶりすぎ。なんとか説得して帰ってきたところ。家族ごっこなんてごめんだし」
そう言いながら、夏海の表情は以前に比べてやわらかい。
「その髪、似合ってるよ」
「ただの気分転換だよ」
ストレートの黒髪をさらりとなで、夏海が町を見おろした。
「船も再開したし、町も元気になるよ。高校も明日からだっけ?」
「うん。少しずつ日常に戻っていってる」
標高の高いこの町に、新しい住民が越してきている。家の建設や復旧が急スピードで進み、南島の噴火もこの先はないそうだ。
だけど、あの日私たちが経験したことは夢なんかじゃない。
この町にいる人も、そうじゃない人にとっても、ふとした瞬間によみがえるだろう。
私はその記憶を力に変えていきたい。
足音がふたつ聞こえた。桜輔と夏海が屋上に出て、同じポーズで体を震わせた。
「ヤバい。寒すぎるんだけど」
「雪が降ってんな。お、夏海もいる」
「いて悪かったな」
腕を組む夏海に、「ひゃあ」と千秋が声をあげた。
「夏海の髪、ストレートになってる!」
「おい、そうじゃないだろ」
桜輔に突っつかれ、千秋がパチンと手を打った。
「夏海を呼びに来たんだった。ほら夏海、行くよ」
「なんで?」
「いいからいいから」
そう言って千秋は夏海を連れていく。
桜輔がドアの前でふり向いた。
「雪音。よかったな」
親指を立てた桜輔がドアの向こうに消えた。
空から降る雪を手のひらにそっとのせてみる。
一瞬で水に変わる雪は、まるで息を吹き返した地球が泣いているみたい。
私たちも同じだ。
よろこびに、悲しみに、苦しみに泣きながら、それでも生きていく。
「雪音」
ずっと聞きたかった声が聞こえる。
顔をあげると、少しやせた冬吏が雪のなかで立っている。
クリスマスに見たもうひとつの雪よりも美しい光景に、しばらく見惚れてしまった。
「幽霊でも見たみたいだな」
クスクス笑った冬吏が、胸に手を当てた。
「ちゃんと生きてる。雪音のおばさんの応急処置のおかげだ、って教えてもらった」
「また一緒に過ごせるんだよね?」
東京の病院で治療を受けた冬吏に、大地さんはこの町に戻ることを許してくれたそうだ。
離婚したはずなのに、大地さんも菜月さんと一緒に戻ってくると聞いている。
「約束したからな」
冬吏が両手を広げた。
その腕に飛びこむと、欠けた心が一瞬で埋まるのを感じた。
もう離れないから。ずっとそばにいるから。
「お帰りなさい」
「ただいま」
強く抱きしめ合ったあと、私たちは白い息を吐きながら空を見あげた。
こわれた地球を癒やすように、真っ白い雪が降っている。
この世界を、君とともに生きていこう。
どんな困難も乗り越えられる。
それが君との、新しい約束だから。
あれだけ暑かった日々がうそのように、雪がこわれかけた町に降っている。
お父さんの説明によると、内核の爆発により、海の水位はまだ高いままだけれど、温暖化は鎮静に向かっているそうだ。
この町以外でも、高い場所に避難した人は無事だったらしく、いい意味でお父さんの説は外れたことになる。
SNSでは過去のお父さんのインタビューが、予言者のように持ちあげられている。『手のひら返しもいいとこだ』と、お父さんは不機嫌。お母さんは気にしてないみたい。
「やっぱりここにいたか」
夏海が屋上に姿を現した。
「昨日、修繕が終わったところ。夏海は今日戻ってきたの?」
「実家に戻るなんて久しぶりすぎ。なんとか説得して帰ってきたところ。家族ごっこなんてごめんだし」
そう言いながら、夏海の表情は以前に比べてやわらかい。
「その髪、似合ってるよ」
「ただの気分転換だよ」
ストレートの黒髪をさらりとなで、夏海が町を見おろした。
「船も再開したし、町も元気になるよ。高校も明日からだっけ?」
「うん。少しずつ日常に戻っていってる」
標高の高いこの町に、新しい住民が越してきている。家の建設や復旧が急スピードで進み、南島の噴火もこの先はないそうだ。
だけど、あの日私たちが経験したことは夢なんかじゃない。
この町にいる人も、そうじゃない人にとっても、ふとした瞬間によみがえるだろう。
私はその記憶を力に変えていきたい。
足音がふたつ聞こえた。桜輔と夏海が屋上に出て、同じポーズで体を震わせた。
「ヤバい。寒すぎるんだけど」
「雪が降ってんな。お、夏海もいる」
「いて悪かったな」
腕を組む夏海に、「ひゃあ」と千秋が声をあげた。
「夏海の髪、ストレートになってる!」
「おい、そうじゃないだろ」
桜輔に突っつかれ、千秋がパチンと手を打った。
「夏海を呼びに来たんだった。ほら夏海、行くよ」
「なんで?」
「いいからいいから」
そう言って千秋は夏海を連れていく。
桜輔がドアの前でふり向いた。
「雪音。よかったな」
親指を立てた桜輔がドアの向こうに消えた。
空から降る雪を手のひらにそっとのせてみる。
一瞬で水に変わる雪は、まるで息を吹き返した地球が泣いているみたい。
私たちも同じだ。
よろこびに、悲しみに、苦しみに泣きながら、それでも生きていく。
「雪音」
ずっと聞きたかった声が聞こえる。
顔をあげると、少しやせた冬吏が雪のなかで立っている。
クリスマスに見たもうひとつの雪よりも美しい光景に、しばらく見惚れてしまった。
「幽霊でも見たみたいだな」
クスクス笑った冬吏が、胸に手を当てた。
「ちゃんと生きてる。雪音のおばさんの応急処置のおかげだ、って教えてもらった」
「また一緒に過ごせるんだよね?」
東京の病院で治療を受けた冬吏に、大地さんはこの町に戻ることを許してくれたそうだ。
離婚したはずなのに、大地さんも菜月さんと一緒に戻ってくると聞いている。
「約束したからな」
冬吏が両手を広げた。
その腕に飛びこむと、欠けた心が一瞬で埋まるのを感じた。
もう離れないから。ずっとそばにいるから。
「お帰りなさい」
「ただいま」
強く抱きしめ合ったあと、私たちは白い息を吐きながら空を見あげた。
こわれた地球を癒やすように、真っ白い雪が降っている。
この世界を、君とともに生きていこう。
どんな困難も乗り越えられる。
それが君との、新しい約束だから。



