その日以降も両親不在の日は、一緒に伊月と台所に立つ事になった。まだ俺ができる事はピーラーでの野菜の皮むき、それから鍋の中を掻き混ぜる事、肉のぶつ切り――と、簡単作業ばかりではあるが、一緒にスーパーで買い出しをして、並んで食事を作るのは幸福だ。
「伊月、ご飯どのくらい?」
「普通」
「普通が一番困るんですよね」
「湊と一緒」
「しょうち」
 伊月の薄青い茶碗と、俺の白い茶碗に白米を盛り付けて、俺は食卓に戻る。
 今日はずっとリクエストしていた和食で、魚の煮つけと野菜の煮物だ。
「うまそ~」
 伊月の前に茶碗を置いて、俺は自分の席に腰を下ろす。炊き立ての白米はつやつやと輝き、ふっくらした切り身の煮物からも、甘辛い醤油ベースの香りが漂っている。
「いただきまーす」
「いただきます」
 俺達は手を合わせて、今日も食卓を囲む。
 幸福が舌の上でゆっくりと溶けて行った。