静かな車内。ナビゲーションが時折流れるだけで、会話はない。
窓の外、流れる景色を眺めながら、俺は気持ちを整理していた。
大河ドラマは辞退だった。それならそれで、「大人の事情」なんて誤魔化さないで、正直にそう言って欲しかった。母が「ベスト」と判断したのだと知っていれば、俺は母を気の毒に思わずに済んだのだ。
でも、言えなかった気持ちもわかってしまう。
おばあちゃんや両親が「辞退」に賛成したのだと知ったら、幼い俺はみんなを嫌いになっただろう。せっかく頑張ったのに、どうして……と。
わからないのは、母が「ベスト」と判断したことだ。高額な授業料を払ってまで、俺を養成所に通わせていたのに、どうしてせっかくのチャンスを棒に振ったのだろう。うちはけして裕福な家庭ではない。父は養成所に反対で、授業料は母のパート収入から捻出されていた。俺はずっと、母は俺に有名になって欲しいのだと思っていた。
「母さんは、俺を有名にしたかったんじゃないの?」
後部座席には緑がいる。こんな質問を彼に聞かれたくはないけれど、俺は聞かずにはいられなかった。
「違うわよ?」
母はあっさり答えた。
えっ……と思う。俺は運転席の母を見た。
「俺を有名にしたかったから、養成所に通わせてたんじゃないの?」
「テレビに渚が出るのは嬉しかったし、大河ドラマが決まった時はそりゃあ嬉しかったけど、でもそのために通わせていたわけじゃないわ」
「じゃあなんのためにっ……」
母は苦笑した。
「なんのためって、あなたが楽しいって言ってたからよ」
母の横顔はいつもと同じ、優しい笑みを浮かべている。
「小学一年生のとき、体験スクールに色々参加したの、覚えてる?」
「いや……」
「あなた、人見知りで内気だから、どこへ行っても落ち込んで帰ってきたわ。打ち解けるのに時間がかかるのよね。色々参加して、あなたはすっかり自信を無くしちゃった。本当に可哀想だったわ」
チラと後部座席を見る。緑はぼんやりと窓の外を眺めていた。
「そんな時にママ友から子役スクールの相談をされたの。オーディションを受けて合格したのに、入学金五十万円を請求されたって。彼女は詐欺を疑いながらも、『あなたの息子さんには光るものがある』という講師の言葉を信じたそうにしていた。一緒にいた別のママ友は、『そんなの全員に言ってるわよ』ってバッサリ言ったわ」
「母さんは……俺に自信をつけさせたかったの?」
「そうねえ……きっかけはそう。オーディションに合格しても、入学しなきゃ良いんだもの。私は軽い気持ちであなたを連れて行った」
「……覚えてるよ」
もう嫌だ、習い事なんかしたくない、と駄々をこねる俺を、母は『オーディション会場』と立て看板の出た施設へと引き連れた。
廊下には俺と同じくらいの子供がたくさんいて、それだけで俺は泣きそうだった。
番号を呼ばれて入った部屋には大人が三人、長机についていた。
名前は? 好きな食べ物は? 特技は?
簡単な質問に答えるだけで、大人たちはウンウンとにこやかに頷いた。その反応に励まされて、俺の声はどんどん大きくなっていった。
すごいね渚くん。この短時間で発声が良くなってるよ。たいしたもんだ。声の通りもすごく良いね。何かトレーニングをしていたの? ……してない? それでそんな声が出るのか。すごい才能だ。
「オーディションの後、レッスンに参加した……すごく楽しかったのを覚えてる」
褒められて調子付いた俺は、その時だけ人見知りを克服して、オーディションを受けた子達と仲良くなった。
「……だから、通わせることにしたの? 俺が楽しんでたから……毎年、百万も払って……」
「そうよお〜」
おどけた口調はまるで、「高額な授業料を私は後悔してない」と俺を安心させようとしているみたいで、ますます胸が苦しくなった。
「本当、仕方ない子ね。勿体ないって思っているんでしょ」
「だって……」
「私はあなたからレッスンの話を聞くのが好きだったのよ。あなたは人見知りも克服して、授業では怯むことなく挙手できるようになった。担任の先生も驚いてたわ」
「……そんなの、養成所に通わなくたって身についた」
「どうかしら」
「勿体ないよ。俺があそこに通わなきゃ、母さんは旅行にも行けたし、欲しいものも買えただろ。俺のために、色々我慢したんじゃないの」
「…………」
ナビゲーションが『目的地周辺です』と告げた。
「緑くん、この辺でいいかしら?」
「あっ……はい。ここからすぐなので」
母は路肩に車を停めた。
「ありがとうございました。送っていただいて助かりました」
「いえいえ。渚とこれからも仲良くしてあげてね」
振り返ると、緑と目が合った。緑はそっけなく目を逸らした。
「……僕が仲良くしてもらっているんです」
消え入りそうな声でそう言うと、緑は車を降りた。マンションへと向かう背中がどこか寂しそうだった。
「渚のおバカ。あなたは人見知りを克服しただけじゃないでしょ」
母がため息まじりに言った。
「あなたは緑くんとどこで知り合ったの? 養成所に通ってなかったら、あなたたちは友達じゃなかったんじゃないの?」
「っ……」
胸に、ツウッと冷たいものが流れ落ちた気がした。俺の発言は緑をどれだけ傷つけただろう。車を飛び出すと、遠い記憶が蘇った。さっちんと緑と三人でレッスンを受けたある日のことだ。
『僕、辞めたくないよ……二人と会えなくなるの嫌だもん』
『お前は俺たちと会うために、親に百万も払わせてるんだ?』
さっちんの言葉に、緑は不思議そうに、『それじゃあダメなの?』と言った。
……ダメじゃない。それで良かったのだ。
「緑っ!」
叫ぶと、背の高い男は足を止め、振り返った。
「緑っ!」
俺はすがるように緑の胸にかきついた。
「さっきの……訂正っ……勿体なくなんかないっ……」
百万は高い。母の時給を思えば大金だ。でも緑と出会えたのに勿体ないはずがない。 「緑っ……俺っ……お前にエラソーなこと言ってたけどっ……俺だって友達いなかった……週末だけ、俺はなりたい自分になれたんだ。お前が……俺を慕ってくれたから……」
「お母さん見てる。変なふうに思われるよ」
緑に嫌われたかもしれない。冷静な声に不安が募った。
「なっちゃん」
緑はやんわりと俺を引き剥がそうとする。不安が最高潮に達した。
俺は両手で緑の頭を抱えこみ、首を伸ばして彼の唇に吸い付いた。
緑の目が大きく見開かれる。次に瞳だけで車の方を見た。
俺は緑の唇に噛み付く。こうすれば、母はきっと去っていく。
角度を変えたり舌を突っ込んだりしても、緑は乗ってこなかった。拒絶されなくても、一方的なキスは虚しくなるだけだった。
嫌われた、と思った。警察沙汰といい、嫌われる要素が多すぎた。
鼻の奥がツンとし、涙が出る寸前で顔を離した。「ごめん」と言って踵を返す。
「どこいくの」
すぐさま腕を掴まれた。
「なっちゃんのお母さん帰ったよ」
「……タクシー拾う」
「僕んち来なよ」
掴まれた腕が、痛いくらい握り込まれる。振り返り、「いいの?」と問えば、彼は痛みを堪えるような顔をした。
「なっちゃん」
と、怒りの滲んだ声で彼は言った。
「なっちゃんを思う僕の気持ち、勝手に低く見積んないで」
玄関に入るなり壁際に追いやられ、キスされた。
貪るような激しいキス。興奮と安堵が込み上げた。こちらも同じ熱量で応じたくても、緑の勢いに押され、受け入れるだけのキスになってしまう。
服の中に手が入ってくる。肌を直接触れられ、びくりと体がすくんだ。
「んっ……ぅ」
性急な手が乳首を摘む。やめろ、と止めようとした手を逆に捕まれ、体の向きをくるりと反転させられた。
壁に額が当たる。
「緑っ……」
「どうして新堂さんに会いに行ったの?」
耳元で小さく囁かれた。
警察署では避けられた話題だ。遠慮するのをやめて、踏み込んでくれたことが嬉しかった。
「なっちゃん、どうして?」
耳たぶを甘噛みし、甘ったるい声で言う。後ろから回された緑の手にギュッと乳首を摘まれて、短い悲鳴が口からもれた。これでは答えたくても答えられない。
「みっ……ん、あっ……」
「新堂さんとのセックスが忘れられなかった?」
首を左右に振って否定する。首筋に噛みつかれ、鋭い痛みが走った。
「ひっ……」
すぐ隣を、今度はきつく吸い上げられた。性感帯でもない場所を吸われているだけなのに、体が昂っていくのを自覚する。
自分はマゾじゃないはずなのに、たった三回、緑と刺激的なセックスをしたせいでおかしな快感を覚えてしまった。
ふと、これも俺のためのプレイだろうか、と冷静になった。緑は俺のために、サディストを演じているんじゃないか……
「いっ……ひっ、いっ……」
シャツを着ても見える場所に、痕がつくほど緑はきつく皮膚を吸う。痛くて、目に涙が滲んだ。いくらなんでもやりすぎだ。緑は人の肌に無断でキスマークをつけるような人間じゃない。
「あとっ……つくっ……」
「いいだろ、なっちゃんは僕のものなんだから」
らしくない乱暴な口調で、やっぱりこれは俺のためのプレイなのだと確信する。
「みっ……緑っ……話をんんッ!」
口の中に指を突っ込まれた。
「後ろほぐすから舐めて」
緑はサディストを演じているだけ。演じていては楽しめないだろう。早く本当のことを伝えるべきなのに、指は出ていかないし、俺はこのまま緑としたい。節高の指を、俺は愛しむように丁寧に舐めた。
窓の外、流れる景色を眺めながら、俺は気持ちを整理していた。
大河ドラマは辞退だった。それならそれで、「大人の事情」なんて誤魔化さないで、正直にそう言って欲しかった。母が「ベスト」と判断したのだと知っていれば、俺は母を気の毒に思わずに済んだのだ。
でも、言えなかった気持ちもわかってしまう。
おばあちゃんや両親が「辞退」に賛成したのだと知ったら、幼い俺はみんなを嫌いになっただろう。せっかく頑張ったのに、どうして……と。
わからないのは、母が「ベスト」と判断したことだ。高額な授業料を払ってまで、俺を養成所に通わせていたのに、どうしてせっかくのチャンスを棒に振ったのだろう。うちはけして裕福な家庭ではない。父は養成所に反対で、授業料は母のパート収入から捻出されていた。俺はずっと、母は俺に有名になって欲しいのだと思っていた。
「母さんは、俺を有名にしたかったんじゃないの?」
後部座席には緑がいる。こんな質問を彼に聞かれたくはないけれど、俺は聞かずにはいられなかった。
「違うわよ?」
母はあっさり答えた。
えっ……と思う。俺は運転席の母を見た。
「俺を有名にしたかったから、養成所に通わせてたんじゃないの?」
「テレビに渚が出るのは嬉しかったし、大河ドラマが決まった時はそりゃあ嬉しかったけど、でもそのために通わせていたわけじゃないわ」
「じゃあなんのためにっ……」
母は苦笑した。
「なんのためって、あなたが楽しいって言ってたからよ」
母の横顔はいつもと同じ、優しい笑みを浮かべている。
「小学一年生のとき、体験スクールに色々参加したの、覚えてる?」
「いや……」
「あなた、人見知りで内気だから、どこへ行っても落ち込んで帰ってきたわ。打ち解けるのに時間がかかるのよね。色々参加して、あなたはすっかり自信を無くしちゃった。本当に可哀想だったわ」
チラと後部座席を見る。緑はぼんやりと窓の外を眺めていた。
「そんな時にママ友から子役スクールの相談をされたの。オーディションを受けて合格したのに、入学金五十万円を請求されたって。彼女は詐欺を疑いながらも、『あなたの息子さんには光るものがある』という講師の言葉を信じたそうにしていた。一緒にいた別のママ友は、『そんなの全員に言ってるわよ』ってバッサリ言ったわ」
「母さんは……俺に自信をつけさせたかったの?」
「そうねえ……きっかけはそう。オーディションに合格しても、入学しなきゃ良いんだもの。私は軽い気持ちであなたを連れて行った」
「……覚えてるよ」
もう嫌だ、習い事なんかしたくない、と駄々をこねる俺を、母は『オーディション会場』と立て看板の出た施設へと引き連れた。
廊下には俺と同じくらいの子供がたくさんいて、それだけで俺は泣きそうだった。
番号を呼ばれて入った部屋には大人が三人、長机についていた。
名前は? 好きな食べ物は? 特技は?
簡単な質問に答えるだけで、大人たちはウンウンとにこやかに頷いた。その反応に励まされて、俺の声はどんどん大きくなっていった。
すごいね渚くん。この短時間で発声が良くなってるよ。たいしたもんだ。声の通りもすごく良いね。何かトレーニングをしていたの? ……してない? それでそんな声が出るのか。すごい才能だ。
「オーディションの後、レッスンに参加した……すごく楽しかったのを覚えてる」
褒められて調子付いた俺は、その時だけ人見知りを克服して、オーディションを受けた子達と仲良くなった。
「……だから、通わせることにしたの? 俺が楽しんでたから……毎年、百万も払って……」
「そうよお〜」
おどけた口調はまるで、「高額な授業料を私は後悔してない」と俺を安心させようとしているみたいで、ますます胸が苦しくなった。
「本当、仕方ない子ね。勿体ないって思っているんでしょ」
「だって……」
「私はあなたからレッスンの話を聞くのが好きだったのよ。あなたは人見知りも克服して、授業では怯むことなく挙手できるようになった。担任の先生も驚いてたわ」
「……そんなの、養成所に通わなくたって身についた」
「どうかしら」
「勿体ないよ。俺があそこに通わなきゃ、母さんは旅行にも行けたし、欲しいものも買えただろ。俺のために、色々我慢したんじゃないの」
「…………」
ナビゲーションが『目的地周辺です』と告げた。
「緑くん、この辺でいいかしら?」
「あっ……はい。ここからすぐなので」
母は路肩に車を停めた。
「ありがとうございました。送っていただいて助かりました」
「いえいえ。渚とこれからも仲良くしてあげてね」
振り返ると、緑と目が合った。緑はそっけなく目を逸らした。
「……僕が仲良くしてもらっているんです」
消え入りそうな声でそう言うと、緑は車を降りた。マンションへと向かう背中がどこか寂しそうだった。
「渚のおバカ。あなたは人見知りを克服しただけじゃないでしょ」
母がため息まじりに言った。
「あなたは緑くんとどこで知り合ったの? 養成所に通ってなかったら、あなたたちは友達じゃなかったんじゃないの?」
「っ……」
胸に、ツウッと冷たいものが流れ落ちた気がした。俺の発言は緑をどれだけ傷つけただろう。車を飛び出すと、遠い記憶が蘇った。さっちんと緑と三人でレッスンを受けたある日のことだ。
『僕、辞めたくないよ……二人と会えなくなるの嫌だもん』
『お前は俺たちと会うために、親に百万も払わせてるんだ?』
さっちんの言葉に、緑は不思議そうに、『それじゃあダメなの?』と言った。
……ダメじゃない。それで良かったのだ。
「緑っ!」
叫ぶと、背の高い男は足を止め、振り返った。
「緑っ!」
俺はすがるように緑の胸にかきついた。
「さっきの……訂正っ……勿体なくなんかないっ……」
百万は高い。母の時給を思えば大金だ。でも緑と出会えたのに勿体ないはずがない。 「緑っ……俺っ……お前にエラソーなこと言ってたけどっ……俺だって友達いなかった……週末だけ、俺はなりたい自分になれたんだ。お前が……俺を慕ってくれたから……」
「お母さん見てる。変なふうに思われるよ」
緑に嫌われたかもしれない。冷静な声に不安が募った。
「なっちゃん」
緑はやんわりと俺を引き剥がそうとする。不安が最高潮に達した。
俺は両手で緑の頭を抱えこみ、首を伸ばして彼の唇に吸い付いた。
緑の目が大きく見開かれる。次に瞳だけで車の方を見た。
俺は緑の唇に噛み付く。こうすれば、母はきっと去っていく。
角度を変えたり舌を突っ込んだりしても、緑は乗ってこなかった。拒絶されなくても、一方的なキスは虚しくなるだけだった。
嫌われた、と思った。警察沙汰といい、嫌われる要素が多すぎた。
鼻の奥がツンとし、涙が出る寸前で顔を離した。「ごめん」と言って踵を返す。
「どこいくの」
すぐさま腕を掴まれた。
「なっちゃんのお母さん帰ったよ」
「……タクシー拾う」
「僕んち来なよ」
掴まれた腕が、痛いくらい握り込まれる。振り返り、「いいの?」と問えば、彼は痛みを堪えるような顔をした。
「なっちゃん」
と、怒りの滲んだ声で彼は言った。
「なっちゃんを思う僕の気持ち、勝手に低く見積んないで」
玄関に入るなり壁際に追いやられ、キスされた。
貪るような激しいキス。興奮と安堵が込み上げた。こちらも同じ熱量で応じたくても、緑の勢いに押され、受け入れるだけのキスになってしまう。
服の中に手が入ってくる。肌を直接触れられ、びくりと体がすくんだ。
「んっ……ぅ」
性急な手が乳首を摘む。やめろ、と止めようとした手を逆に捕まれ、体の向きをくるりと反転させられた。
壁に額が当たる。
「緑っ……」
「どうして新堂さんに会いに行ったの?」
耳元で小さく囁かれた。
警察署では避けられた話題だ。遠慮するのをやめて、踏み込んでくれたことが嬉しかった。
「なっちゃん、どうして?」
耳たぶを甘噛みし、甘ったるい声で言う。後ろから回された緑の手にギュッと乳首を摘まれて、短い悲鳴が口からもれた。これでは答えたくても答えられない。
「みっ……ん、あっ……」
「新堂さんとのセックスが忘れられなかった?」
首を左右に振って否定する。首筋に噛みつかれ、鋭い痛みが走った。
「ひっ……」
すぐ隣を、今度はきつく吸い上げられた。性感帯でもない場所を吸われているだけなのに、体が昂っていくのを自覚する。
自分はマゾじゃないはずなのに、たった三回、緑と刺激的なセックスをしたせいでおかしな快感を覚えてしまった。
ふと、これも俺のためのプレイだろうか、と冷静になった。緑は俺のために、サディストを演じているんじゃないか……
「いっ……ひっ、いっ……」
シャツを着ても見える場所に、痕がつくほど緑はきつく皮膚を吸う。痛くて、目に涙が滲んだ。いくらなんでもやりすぎだ。緑は人の肌に無断でキスマークをつけるような人間じゃない。
「あとっ……つくっ……」
「いいだろ、なっちゃんは僕のものなんだから」
らしくない乱暴な口調で、やっぱりこれは俺のためのプレイなのだと確信する。
「みっ……緑っ……話をんんッ!」
口の中に指を突っ込まれた。
「後ろほぐすから舐めて」
緑はサディストを演じているだけ。演じていては楽しめないだろう。早く本当のことを伝えるべきなのに、指は出ていかないし、俺はこのまま緑としたい。節高の指を、俺は愛しむように丁寧に舐めた。


