宴の中盤、悠真が言った。

「琴の音を聴きたい。皆の技量を見せてほしい。」

 優桜院の宮廷では琴は女性の教養の象徴であり、即興での演奏は心の深さを示す試練だった。令嬢たちは動揺し、ぎこちない音を奏でた。美桜も得意げに弾いたが、技巧に走った音色は心に響かなかった。
 珠緒の順番が来ると、彼女は静かに琴の前に座った。

 母が愛した「桜花の調べ」を思い出し、深呼吸して弦に指を滑らせた。
 その音色は、春風が桜の花びらを運ぶように優雅で、切なさを帯びていた。会場は静寂に包まれ、貴族たちは息をのむ。

 曲が終わると、拍手が沸き、悠真が珠緒に近づいてきた。

「その曲は、どこで覚えた?」

 彼の声は穏やかだが、強い意志を秘めていた。

「母の愛した曲です。清桜家の庭で、いつも弾いておられました。」

 珠緒の答えに、悠真は微笑んだ。


「君の音は、私の心を揺さぶる。君自身が、まるで桜の精のようだ」