優桜院の宮廷では、季節ごとに雅な宴が催され、貴族たちは和歌や音楽で競い合った。この春、東宮・悠真の婚約者を選ぶとされる「桜花の宴」が開催されることになり、清桜家にも招待状が届いた。
宗綱は美桜を推し、珠緒には「付き添い」と命じた。珠緒は母の形見である薄桜色の十二単を準備したが、美桜に奪われた。
「こんな大事な場で、みすぼらしい姿で清桜家の名を汚すつもり?」
美桜の言葉に、珠緒は唇を噛んだ。
粗末な灰色の単衣で会場に向かった珠緒は、宮廷の門で門番に阻まれた。優桜院の宮廷では、装いは地位と教養の象徴であり、粗末な姿は嘲笑の的だった。
「清桜家の令嬢だ」と訴えても、笑いものだった。
その時、涼やかな声が響いた。
「彼女を通しなさい。」
振り向くと、藍色の直衣に身を包んだ武官が立っていた。怜司と名乗る彼は、東宮の側近で、宮廷の厳格な礼儀作法を熟知しつつ、珠緒の気品を見抜いた。
「君のような者がこんな扱いを受けるのは許せない。」
彼の言葉に、珠緒の心は温もりで震えた。



