優桜院の世は、雅やかな都を中心に皇族と貴族が織りなす華やかな文化が花開く時代だった。
 宮廷では和歌、琴、舞、書が貴族の教養として重んじられ、特に女性はこれらの技芸で気品を示すことが求められた。

 そんな貴族の一つである清桜家は、代々皇族が降嫁するほどの名門だったが珠緒の両親が疫病で急逝してしまい叔父である宗綱が家督を継いだことで、屋敷には暗い影が差していた。

 長女の珠緒は嫡子でありながら宗綱、その妻である華江、義妹の美桜に虐げられていた。

 彼女は母から受け継いだ琴の技と、和歌を詠む才を持ち、毎晩、母の愛した「桜花の調べ」を奏でて心を慰めた。
 だが、美桜は珠緒の持ち物を奪い、「お姉様にはこんな素敵なものは似合わないわ」と嘲笑った。

 華江は「嫡子とは名ばかり。家のために働くのがお前の務め」と冷たく言い放ち、宗綱は黙認した。珠緒は、宮廷文化の中心である和歌や琴の稽古を許されていたが、それは清桜家の体面を保つためのものに過ぎなかった。