東京の地下鉄は人が多い。隣の駅までのたった数分でも、一苦労だ。平均よりやや低い身長のせいもあり、誠はいつもぎゅうぎゅうに押しつぶされる。気を抜けば人に流され、今日も今日とて、ドアの方に追いやられた。窓にはなんだかパッとしない容姿の自分が写っている。つんとした猫のような目元に、男らしさとは程遠い白い肌。はねひとつない、真っ黒な髪はまっすぐストンと落ちていて、どこか地味な印象だ。まぁ、そんな自分の容姿が、別に嫌いなわけではない。目立たず、浮かず、嫌われないように。そうやって生きるのにはむしろぴったりな容姿ですらある。
大学の最寄駅の名前が呼ばれ、誠はどうにか人の波をかき分け、電車を降りた。駅についたところから誠の1日は始まる。ふぅと深呼吸をし、東京の大学生になるための心の準備をしていく。
──明るく元気に、ハキハキと、それでいてダルそうな感じも忘れずに。
いつもの呪文を心の中で唱えてみるが、なかなか陰鬱な気分が晴れない。今日は大学終わりに友人と遊ぶ予定が入っているせいかもしれない。
いや、違うか。自分の問いに自分でノーを突きつける。今日はそれより最悪なことがあったのだ。
今朝、大嫌いなアパートの隣人と鉢合わせてしまったのである。彼はパートナーが同性にも関わらず、隠すつもりは微塵もないらしい。年上と思われる男性と、親しげに抱擁と接吻(頬に)を交わしていた。その光景を思い出し、思わず大きなため息が溢れ出た。彼に対する感情が怒りなのか、悲しみなのか、嫉妬なのか。
答えはなんとなくわかっているが、惨めになるだけなので思考を放棄することにした。
「よし……」
誠は気合いを入れるように自分の頬を叩き、重い一歩を踏み出した。
