「誠くん、最近ちょっと働き過ぎじゃない?」

 アルバイト先の店長の思いがけない言葉に、一瞬皿洗いの手を止めてしまったが、誠は慌ててかぶりを振り、笑顔を作る。

「いやー。最近金欠で。節約しなきゃって思ってるんですけどね。だからシフト入れられるだけ入れてほしいです」

 店長は少し困った表情を浮かべたが、「まぁ大学生ならそんなもんか」と苦笑しながら納得し、ホールへと戻っていった。
 そして、上がる時には出来上がっていた来週のシフトを見ると、今週同様、希望通りの週五でシフトを入れてくれていた。
 課題もあり、正直体力的には厳しいが、睡眠時間を削ればどうにでもなるだろう。近頃は悪夢ばかり見るので、むしろ寝たくないくらいだ。
 それに、アルバイトの時間も勉強の時間も、これからの時間に比べればまるで苦痛ではない。
 誠は大きなため息をつくと、鉛のように重たい足を引きずりながら店を後にした。



「お! 志田くん、やっと来たー。遅いよ」

「ちょっとバイトが長引いて……」

「はいはい。言い訳とか聞いてないから。罰金一万円ね」

 花岡 哲(はなおか てつ)は気持ちの悪い笑みを浮かべながら、誠の目の前にひらひらと手を差し出してくる。
 花岡は高校の時からこうだった。誠をいじめていた連中の取り巻きの一人で、誠を中心的にいじめていたわけではなかったが、金だけは何度もせびってきた。そして、誰よりもゲイを毛嫌いしていた印象だ。

「今月はもう厳しい。給料日まで待ってほしい」

「え、うそ! もしかして無理って言ってるの? あの志田くんが俺に反抗してるの?」

「反抗とかじゃなくて……。普通に今月は金ないから無理だって……」

 誠は先週からほぼ毎日のように、バイト後に呼び出されては、花岡から金を巻き取られていた。家賃のことなどを考えると、そろそろ本当に限界である。

「は? いくらでも稼ぐ方法なんてあんだろ! あ、そうだ。ウリとかやればいいじゃんか。ゲイってお仲間同士のセックスが大好きなんだろ?」

 一ミリも理解できない偏見に誠は思わず、顔を歪めてしまう。

「おい、何だよその顔」

 しまった、と思う頃には手遅れで、誠は腹に強烈な一発を食らった。

「……っ! ゴホッ……!」

「とにかく、今日の金早く出せ。罰金含めて三万で勘弁してやるから」

「も……無理だって……うっ!」

 胸ぐらを思いっきり掴まれ、誠の身体は恐怖で強ばる。

「それ以上反抗するなら、ゲイってことバラすぞ? 高校の時の地獄、また味わいたい?」

「ら、来週までにはお金用意するから……。今日は今ある分だけ渡す」

 誠が財布ごと差し出すと、花岡は誠の胸元から手を放し、乱暴に受け取る。

「あー? これっぽっちかよ。まぁ、時間ないし今日はこれで勘弁してやるか。来週までには、お仲間探して稼いでこいな」

 花岡は一万円札をポケットに詰めると、誠の財布を投げ、去っていった。張り詰められていた緊張の糸が緩み、誠は膝からガクンと崩れ落ちる。
 図書館で花岡と出会ってから始まった、この最悪な日々は誠を肉体的にも、精神的にも疲弊させていった。
 しかし、同時にどこか安心感を感じている自分もいた。これ以上堕ちることはないという奇妙な安心感。
 黒澤と過ごしていた日々は、甘くて幸せで、でも不安な日々だった。いつか消えてしまいそうな儚い時間は、もう一人で歩けなくなるのではないかという、漠然とした不安を誠に抱かせた。
 だから誠は逃げた。黒澤からの連絡も無視し、出る時間が被らないように朝早く学校に行き、そのまま夜遅くまでバイトをした。
 黒澤から逃げて、真っ暗で汚れた、でも自分にはお似合いの泥道を選んだのだ。黒澤と同じ道は選べない。黒澤には綺麗に塗装されていて、周りに花が植えてあるような道が似合っているのだ。そして、その隣を歩くのはあのスーツを纏った高身長の男なんかが良い。
 綺麗な道を汚してしまうかもしれない自分なんかは近づいてはいけない。誠は腹の痛みと寝不足で、意識が朦朧とする中、そんなことを考えていた。
 しばらく夜風に当たり、身体も頭も冷やされると、やっと意識がはっきりしてきた。軋む身体に鞭を打ち、誠はポツの待つ家へ、ゆっくりと足を動かした。


 玄関の扉を開けると、唯一の癒しであるポツが出迎えてくれる。部屋の奥から、誠のためにわざわざ玄関へと駆けてくるポツの姿は、何度見ても心暖まる。
 誰かが自分の帰りを待っていてくれるというだけで、家は天国のように安らぐ場所になるのだと最近知った。
 今日も、これからの時間だけは心身共に癒されよう、そう思った。
 しかし、靴を脱いで部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、誠の身体は砂のように崩れ落ちた。
 家にたどり着いた安堵感のせいか、身体に全く力が入らない。眠りたくないのに、瞼が重力に逆らえない。
 遠のく意識の中で、ポツの叫び声のような鳴き声が聞こえてくる。
 夜ご飯をまだあげられてない。きっとすごくお腹を空かせているのだろう。
 自分は本当にダメな飼い主だ。
 そう思いながらも、段々と視界が暗くなっていく。せめてベッドに行かなければと思うのに、身体が言うことを聞いてくれない。
 その時、激しく扉を叩く音が聞こえた。
 そして、次に耳に入ってきた声に、冷え切っていたはずの誠の身体が急速に熱を持ち出す。

「志田! どうした!? ドア開けて!」
 
 ポツの鳴き声で異変に気づき、来てくれたのだろうか。
 誠を呼ぶ黒澤の声は、なんだか間抜けな声だった。いつもの落ち着いた感じではなく、焦った感じ。
 それでも、久しぶりに聞いた黒澤の声に、誠は安心感を覚えた。
 逃げたいのに。黒澤とは関わりたくないのに。そう思う心と相反して、黒澤が来てくれたことを喜んでいる自分が居る。
 本当はずっと来て欲しかった。連絡を無視しても、避けていても、こうやって部屋の扉を叩いて欲しかった。
 なんて自分勝手でわがままなのだろう。でも、逃げる自分を追いかけて欲しいと、心の奥底で、そう思ってしまっていたのだ。そのことに、今気がついた。
 誠は薄れゆく意識の中、必死に腕だけでも動かそうとした。
 この扉の鍵を開けることだけは許されるだろうか。そんなことを思いながら、たった数センチの距離のドアノブまで、必死に手を伸ばした。

「志田! おい! 大丈夫か!」

 扉を開けた黒澤は、驚いた表情で誠に駆け寄り、力の入っていない誠の身体を優しく抱き起こした。
 慌てふためき、いつもより荒い黒澤の口調がなんだか面白かった。
 黒澤はすごい。あんなに真っ暗だった世界をすぐに明るくしてくれる。本当に太陽みたいだ。

「待ってろ。今救急車呼んでやるからな」

 珍しく冷静な判断ができていないらしく、黒澤はスマホに番号を打とうとする。

「……ちょっ、落ち着けって……。大丈夫だか」

「何が大丈夫なんだよっ! そんな真っ青な顔して、どこがっ……」

 これまで見たことのないような黒澤の悲しげな表情に、誠は瞠目する。重くて開かなかったはずの瞼が、今は黒澤の表情を捉えようと、すっかり見開かれている。

「……大きい声出して、ごめん……」

「いや……俺こそごめん。とにかく救急車なんて呼ばなくて平気。寝不足でちょっと立ちくらみしただけ」

 そう言って、黒澤の身体から離れようとするが、まだ足には上手く力が入らず、よろけてしまう。

「動かなくていいから。とりあえずベッド行こう」

 そう言うと、黒澤は軽々と誠の身体を横向きに持ち上げてしまう。恥ずかしくて、情けなくて、誠の身体は火が出るかと思うくらいに熱くなる。しかし、抵抗できるほどの力は、もう残っていなかった。
 黒澤は誠をベッドまで運ぶと、一度自室に戻り、救急箱を持って戻ってきた。

「とりあえず、熱測って」

 有無を言わせないような低いトーンで言われ、誠は大人しく渡された体温計を脇に挟む。先ほどまではなんだか泣きそうな顔をしていた黒澤だったが、今は無表情で感情が読めない。
 ピピッという機械音の後、画面には三八度後半の数値が示される。
 
「結構あるな。朝になっても下がらないようなら病院行こう」

「……別にこれくらい寝てれば治る。てか多分寝不足なだけだから……」

「なんで寝不足なの? ずっとバイトしてるせい?」

 黒澤は誠を問い詰めるかのように、間髪入れずに聞いてくる。目を合わせてはくれず、それが誠の不安をより一層掻き立てた。

「か、課題とかも忙しくて」

「じゃあバイト休めば良いよね? 志田ってそんなにお金使わないでしょ? どうしてそんなにバイトする必要があるの?」

 別人のような冷たい言い方をする黒澤に、誠の身体は再び体温を失っていく。今の黒澤は太陽とは程遠い。まるで今にも雨を降らせそうな黒い雲のようだ。

「……あの。迷惑かけて本当にごめん……。この前も変なこと言って、ごめ」

「違うだろ! 謝ってほしいわけじゃない!」

 黒澤はどこか苦しそうに、拳を握り締めながら、そう叫んだ。
 黒澤が怒鳴るなんて想像もしておらず、誠は一言も声を発することができない。代わりに小刻みに手が震える。
 そのことに気づいた黒澤は焦った様子で、誠の手を強く握りしめる。

「ご、ごめん! 違う、怒鳴るつもりなんかなかったんだ……。体調悪いのに、ほんとにごめん」

 俯きながら、沈痛な面持ちを浮かべる黒澤に、誠の心臓は酷く痛んだ。怒っている黒澤も怖くて嫌だが、悲しそうな黒澤はもっと見たくなかった。
 黒澤には太陽のようにいつも笑っていて欲しい。それなのに、こんな表情を自分がさせてるのかと思うと、また自分のことがたまらなく嫌になる。
 黒澤が謝る必要なんて、これっぽちもないのに。

「いや、少し驚いただけ……。えと……来てくれて……本当に助かった……。ありがとう」

 黒澤は何度も自分を助けてくれた。こんな自分のことをずっと気にかけてくれた。それだけで、もう誠の胸は一杯だった。この感情がどうか伝わりますようにと、心を込めてそう呟いた。

「……うん。志田も鍵開けてくれて、ありがとう。頼ってくれて本当に嬉しい」

 その言葉に、誠は涙が溢れそうになった。
 鍵を開けることくらいは許されるだろうか、そんな風に思っていたのに、黒澤は嬉しいと言ってくれた。それだけでこれまでの嫌な思いが全て浄化されるような気がした。
 やっぱり黒澤と一緒に居たい。嘘をつかれたことには、少し胸が痛むけど、今思えばそこまで怒ることではなかった。そもそも冗談を真に受けてしまった自分が悪い。
 多分、黒澤のことを好きになりかけていた。だから、あんなにイライラしてしまったんだ。
 でも、まだ引き返せる。友達に戻れる。恋人になりたいなんて贅沢なことは言わない。
 この暖かさを少しでも感じれることができるなら十分ではないか。
 友達としてでも、この暖かい人の隣に居られるのなら、それだけで……。

「あの……この前は訳わかんないことで怒って、ほんとにごめん……。なんかあの日イライラしてて、八つ当たりしちゃったんだ。それと最近避けてたのもごめん。あんま喧嘩とかしないから仲直りの仕方がわかんなくて……」

「本当にそれだけ? 怒ってた理由、他にあるんじゃないの? 俺には全部言って。そんなにバイトしてる理由も、ちゃんと教えてほしい」

 黒澤は誠としっかりと目を合わせ、真剣に向き合ってくれている。それだけで、誠は嬉しくてたまらなかった。もう、これだけで救われたと、心の底からそう思った。
 だからこそ、醜い感情も、花岡の存在も、黒澤に言うわけにはいかない。
 黒澤を泥道に巻き込むのだけは絶対に嫌だ。

「バイト先が最近、全然、人が足りなくてさ。それであの日も疲れて、イライラしてたんだ。最近バイトにたくさん入ってるのも、そのせい。俺、頼まれると断れないタイプだから」

 そんな誠の言葉に、黒澤は眉間に皺を寄せ、訝しげな表情を浮かべる。そして、数秒の沈黙の後、重たげな唇を開く。

「……わかった。今はそれ以上何も聞かない。でも、それで身体壊してたら何の意味もないだろ」

 誠の下手な嘘なんか、鋭い黒澤には通用していないだろう。
 それでも黒澤はもう問い詰めることはしなかった。
 本当にどこまでも優しい男だ。

「店長に相談して、もう少しシフト減らしてもらうよ」

「お願いだからそうして。てか本当に人足りないなら、俺もそこでバイトしよっか?」

 予想だにしていなかった提案に、思わず口から「へ?」と情けない声が出てしまう。

「あ、いや、まぁ、うん。本当に困ったら、た、頼もうかな!」

「俺、接客自信あるよ」

 ドヤ顔で胸を張る黒澤に、誠は思わず笑ってしまう。こうやって、黒澤はいつも暖かい空気にしてくれる。

「さすがイケメンカフェ店員だな」

「お、志田に初めて褒められた気がする」

 いつも通りのくだらないやりとりに、誠は心の底から安心する。

「まぁ、しばらくはとにかくゆっくりすること。冷えピタ貼ったげるからもう少し寝てな」

 黒澤の綺麗な細長い指先が、優しく誠の前髪をかきあげ、デコがヒヤリと気持ちよくなる。 
 黒澤の暖かい手は、そのまま誠の頭へと移動し、子供をあやすかのように撫でてくれる。
 誠はそれが嬉しくて、目を閉じ少しの間、意識を手放した。


「あ!」

「……びっくりした。ど、どした?」

 誠の大きな声に、ベッドの横でうたた寝していた黒澤が飛び起きる。

「あ、ごめん。ポツに餌あげてなかったなって……」

「それなら俺があげとくよ」

「ありがと。あれ、てかなんで静かだったんだろ? さっきはお腹空かせてあんなに鳴いてたのに」

「……志田、それってもしかして倒れた時のこと言ってる?」

「え、うん」

 誠が当たり前だろ、と言う風に肯定すると、黒澤は大きなため息をつく。

「お腹空かせてたから鳴いてたわけじゃないだろ。志田が倒れたから心配で、だからポツは鳴いてたんだよ」
 
「えっ」

「ポツは誰か志田を助けてって、きっとそう言いたくて鳴いてたんだ。現に、俺はそれで志田を助けることができたしね」

 自分のために、ポツがあんなに鳴いてくれていたのか。
 そう思った途端、情けないことに目頭が熱くなる。

「ねぇ志田。俺がこの前言ったこと覚えてる?」

「この前言ったこと……?」

「志田が辛いと、俺も辛いってやつ。ポツだってそうなんだよ。志田はもっと自分を大切にしないとダメだ。それは俺や、ポツのためでもあるんだよ?」

 誰かのために自分を大切にする。そんなことは考えたこともなかった。黒澤の言葉は、いつも新鮮で、そして、暖かい。
 もしかしたら、あの悪夢が現実になる時が来るかもしれない。
 今だけの儚い幸せかもしれない。
 そう思うととても怖かった。
 でも、今は違う。
 いつか太陽が無くなってしまうとしても、明けない夜が来るとしても。
 その時までは、この暖かさに包まれていたい。そしたら、この先、それを糧に生きていけるから。
 今は、そんな風に思うことができる。

「ありがとう。黒澤」

「お礼じゃなくて、少しは俺の言うこと聞いてね」

「……うん。でも、ありがとう」

 誠の返答に、黒澤は困りながらも、少し嬉しそうな表情を浮かべていた。


 黒澤が餌を置くと、ポツは凄まじい勢いで食べ始めた。やっぱりすごくお腹が空いていたのだなと思うと、申し訳ない気持ちになる。

「志田は何か食えそう? 薬飲む前になんか腹に入れといた方が良いよ」

「うーん……。今は無理そう」

 熱のせいもあるが、花岡に殴られた腹が痛んで、食べられそうにない。

「どっか辛い? 吐き気とかある?」

「ちょっと、だるいだけ。そんな心配しなくても大丈夫だから」

 不安気に問いかけてくる黒澤が、なんだか可愛らしく思えた。こんな風に看病してもらえるなら、熱も悪くない。生まれて初めてそう思えた。
 餌を食べ終えたポツは上機嫌なのか、軽い足取りでこちらへと走ってくる。
 誠のベッドの横にたどり着くと、いつものように上に乗ろうと、ポツは低い姿勢を取る。

「あ、こらポツ! 志田は具合悪いんだから、今はダメだよ」

 その様子を見て、黒澤は慌ててポツを抱き上げようとしたが、誠がそれを制止する。

「別に平気だよ。ほら、おいで、ポツ」

 そう言いながら、ベッドをポンポンと叩くと、ポツは嬉しそうに、ベッドの上へと飛び乗った。
 しかし、ここでアクシデントが発生した。
 運悪く、ポツが着地したのは誠の腹の上だったのである。それも、まさかのピンポイントで殴られた場所だ。
 子猫といえど、さすがに大きな衝撃が走る。

「……いっ!!」

 あまりの痛さに、誠は思わず叫び声を上げてしまう。ポツはその声に驚いたのか、誠から飛び退いた。

「志田! 大丈夫か!?」

 誠の大きな声に、黒澤が焦った様子で駆け寄ってくる。

「……だ、だいじょうぶ。ポツ、大きな声出してごめんな」

 びっくりして逃げてしまったポツに優しく声をかける。ポツは怒られたわけではないと理解したのか、その場で静かに丸まり、眠り出した。
 ポツを怖がらせなくて良かったと、安心したのも束の間、誠の身体からは冷や汗が吹き出す。
 誠を捕らえて逃がさないような、そんな鋭い黒澤の視線を、感じているからだ。

「志田、今の痛がり方ちょっと尋常じゃなかったよね。腹、見せて」

「え、いや、ほんと大丈夫だから!」

「さっき言ったこと、さすがにまだ覚えてるよね。平気なら見せて」

 そう言いながら、黒澤はベッドに乗り、布団を剥ぐ。

「や、やめっ!」

 誠の必死の抵抗は虚しく、あっという間に黒澤は誠のシャツの裾を掴み、捲り上げた。

「ねぇ……。なんなのこれ……。ポツが乗っかっただけで、こんなんになるはずないよね?」

 黒澤が目を見開きながら言う。手はかすかに震えているように思えた。

「志田、説明して」

 低く、どこか冷たいようなトーンで黒澤がそう言う。
 どうやら、誠は再び暖かい太陽に雲をかけてしまったようだ。