長机がコの字型に配置された会議室に入り、ドアを閉めたところで暁斗は「ふはー!」と盛大に息を吐いた。
「社長までいると思わなかったからビビったわ……ていうか夕也、なんもされてない?」
「なんでだよ」
「いや、あの人いろいろ強引だから……って、違う。そんなこと話したかったんじゃない」
暁斗は苦笑して、持っていた紙を長机の端に置き、俺を見た。
綺麗な形の目に、俺の姿が映っている。はっきりと見えたわけじゃないけど、不思議とそれがわかる。
「あのさ……ありがとう。俺、炎上なんて初めてで。誰の前でも平気なフリしてたけど、本当はすごく怖かったんだ」
淡々とした言い方が、かえって傷の深さを物語っているようで胸が痛くなる。暴力的な言葉の数々を思い出すと、俺まで苦しかった。暁斗がどれほどつらかったかなんて、想像するに余りある。
「世界の誰も俺の味方じゃないんだなって、大げさじゃなく思えてきた時にさ。流れ変わったぞってメンバーに教えてもらって。……あのポスト、夕也だってすぐにわかった」
「あの、動画を消すように言ってくれたのは五十嵐で。俺は、全然そういうことはできなかったんだけど……」
ごにょごにょと言った俺に、暁斗は「だけど」と続けた。
「あれは間違いだって、はっきりと言葉にしてくれたのは夕也だけだったよ」
暁斗が笑う。それだけで、もっとやりようがあったよなとか、五十嵐たちがいなかったら何もできなかったなとか、そういう葛藤がきれいに吹っ飛んでしまう。
――暁斗が笑ってくれたから、いいのかな。
結局のところそう思ってしまう俺って単純だと、我ながらあきれる気持ちもある。でも、仕方ないじゃないかとも思う。好きなんだから。
「それに、こっちも嬉しかった」
と、暁斗はスマホを取り出した。少しの間操作してから、画面を俺に向ける。
「あ、これ……」
あのSNSの、俺のポストが表示されていた。事実を伝える淡々とした告発のほうではない。そのあとに投稿した、感情のままに書き連ねた文章たちだ。
〈傷が嫌いでした。メイクで傷を隠せたことで自信が持てたけど、中身は何も変わってないと言われ、ショックを受けていた時に三橋くんが僕をかばってくれました〉
〈メイクをしてようがしてまいが、僕の魅力は変わらないと言ってくれた。ただの友達に過ぎない僕を、彼はアイドルという立場があるにもかかわらずかばってくれたんです。それが僕は、泣きたいほど嬉しかった〉
〈そんな優しくて強い暁斗が誤解されたままなだなんて、僕は嫌です。だからこうして事実を発信しました〉
――うわ。
頬に熱が集まるのがわかる。だって、あまりにむき出しの感情が書かれていたから。あの時は必死で気づかなかったけれど、今さら恥ずかしくてたまらなくなってきた。……暁斗って呼んでるし、途中から。
暁斗はどんな顔をしているんだろうと思ったら、目が動かせなくなる。スマホに視線を固定したままの俺に、暁斗は「俺、本当に嬉しかったよ」と静かに言った。
「もう誰も、俺のことなんか好きじゃないのかなって思ってたところに、こんなふうに言ってもらえて……。夕也はきっと、誰が相手でもこうしたんだろうけど」
ありがとう、と続いた声は震えている。顔を上げると、揺れるまなざしに射貫かれた。迷子みたいな、泣きそうな目。
どうしてだろう。その瞬間に、俺の口はするりと言葉をつむいでいた。
「好きだから」
形のいい目が見開かれ、揺れていた視線がピッと一点で留まる。異音に耳を澄ませる猫みたいな顔で、暁斗は俺をまじまじと見つめた。まったく予期していなかった事態に、心の底から驚き、戸惑っているのがよくわかった。
――言わなきゃよかった。
心の声とはうらはらに、俺の口はもう一度「好きだよ、暁斗」と繰り返す。
「俺だって、本当は怖かったよ。こんなこと、普段の俺だったら絶対しない。だけど暁斗が誤解されてるほうが嫌だった。好きだから」
行き場のなかった言葉たちが、口から次々にあふれて止まらなくなる。暁斗はそんな俺を、目を見開いたまま見つめ続けている。
「……最初は、友達だからかと思ってた。でも違う。暁斗は俺をまっすぐだなんて言うけど、まっすぐなだけじゃいられなくなる。嫉妬したり寂しくて泣きたくなったり、でもそんな自分を知られなくないって思ったり……暁斗以外に、そんな気持ちになったりしない」
最後のほうは、声が震えてしまった。「ごめん」と付け足すと、自分でもびっくりするくらいか細い声になる。
「言うつもりなかったのに、ごめん。……こんなこと言われても困るよな。ごめん、本当に――」
声が浮く。ふわりと甘い香りがして、ぬくもりに包まれる。やわらかな髪が首筋をくすぐった。その感触に、抱きしめられたあの日の記憶がよみがえった。
心拍が一気に跳ね上がったのは、背中に回された腕の力があの日よりも強かったからだ。
「夕也は本当に……いつだって、俺がほしい言葉をくれるな」
俺の肩に頭を擦りつけるようにして、暁斗が言う。その言葉の意味を考えるより先に、暁斗が顔を上げて俺の目を覗きこんだ。
「俺たち、両想いってことでいいの?」
両想い。
意味が理解できるまでに、少し時間がかかった。
「……え?」
夢なのか? と真っ先に思った。だって、暁斗が俺と同じ気持ちでいるなんて、そんなのあまりに都合がよすぎるだろう。
けれど暁斗は、俺の戸惑いを吹き飛ばすみたいに笑った。
「俺も、夕也が好きだよ」
「……うそ」
やっとのことでそれだけ言った。喜びより先に、驚愕がゆるゆるとやってくる。
――俺のことを好き? 暁斗が?
「うそじゃない。なんなら全部言おうか、好きなところ。まっすぐでうそがないところが好き。誰かのために、ためらわずに動けるところが好き。メイクして変わろうとがんばってるところも好きだったけど、メイクがなくたってそういう根っこの部分は変わらない。……そういうところが、一番好きだ」
「ま、待って待って! ちょっと、ついていけないっていうか……」
さえぎるように手を振ると、暁斗は不服そうに「待たない」と言った。
「夕也がついてこられなくたっていいよ別に。俺、ずっと我慢してたんだからな。あー、晴れて両想いならいくらでも言える、これから」
「ずっとって……いつからなわけ」
他にもいろいろ気になる部分はあったけど、とりあえずそれだけ尋ねた。暁斗はしばらく視線をさまよわせてから、
「わかんね」
と、照れたように笑う。その笑顔を見たら、驚愕も戸惑いも溶けるようにして消えていった。……どういうわけだろう。暁斗は本当に俺と同じ気持ちなんだって、その笑顔を見てわかったから。
「気づいたら、好きだったから。いつからかわかんないや」
「……俺も」
つぶやいて、暁斗の背中に腕を回す。鎖骨のあたりに額を寄せたら、泣きそうになった。あたたかくて、嬉しくて、幸せで。その全部が一緒くたになって、胸を満たす。
メイクに向き合う時の真剣なまなざし。好きなものを語る目の輝き。俺さえ知らなかった、俺の長所を見出す観察力。心から笑った時、目尻に浮かんだ笑い皺。――そういう一つ一つが重なって、気づいたら好きという感情を連れてきていた。
「暁斗はさ、俺でいいの?」
尋ねると、「は?」と不機嫌そうな声が降ってくる。
「俺で、ってなんだよ。夕也以上にいいやついるなら連れてきてほしい。……ていうか、夕也こそ俺でいいわけ」
「なんで」
「俺、とうぶんアイドルでいるよ。好きな仕事だし。……夕也以外にも好き好き言いまくるし、外でロクに手も繋げないようなやつだよ、俺は」
そんなのわかりきってる。だから俺は、暁斗に何も言わないって決めていた。
抱きしめる腕はそのままで、顔を上げて尋ねる。
「ファンへの『好き』と、俺への『好き』は同じ?」
「全然違う。……こんなの、ファンには絶対に言えないけど」
ムスッとした顔に、思わず笑ってしまう。こんな表情、たぶんファンの前では絶対にしないだろうから。
「だったらそれで十分だ」
――俺だけが知ってる暁斗の顔があるなら。
――俺だけに見せる暁斗の欲があるなら。
そんな心の声が伝わったみたいに、暁斗は再び俺の肩口に頭を寄せた。
「古橋さんに見つかったら怒られるな。会社でやるなって」
鼓膜を震わせるその声がくすぐったくて、俺は肩をすくめる。そうして、暁斗の耳元でささやいた。
「いいよ。その時はまた、俺が助けるよ」
「どうやって?」
「やっと両想いになったところなので許してくださいって言う」
「助けになってねえ」
暁斗が心底おかしそうに笑った。目尻に浮かんでいるであろう、いとしい笑い皺のことを俺は思う。そうして心の中だけで、好きだ、ともう一度つぶやく。
――だから、世界に味方が一人もいなくなったって。何度だって、暁斗を助けるよ。
「はあ、キスしたいな」
暁斗が耳元でそんなことを言ったから、びっくりしたけれど。俺としてもそれはやぶさかでないというか、むしろしてみたいという気持ちが大きかったので、迷った末に尋ねてしまう。
「……しないのか?」
暁斗はバッと顔を上げて、俺をまじまじと見てから「しないっ」と断言する。みるみるうちに頬が赤く染まっていって、こんな暁斗は初めて見るなあなんてのんきに思う。
「今したら次の仕事に支障が出るからしない」
それがあんまり早口だったから、俺は思わず笑ってしまった。
「社長までいると思わなかったからビビったわ……ていうか夕也、なんもされてない?」
「なんでだよ」
「いや、あの人いろいろ強引だから……って、違う。そんなこと話したかったんじゃない」
暁斗は苦笑して、持っていた紙を長机の端に置き、俺を見た。
綺麗な形の目に、俺の姿が映っている。はっきりと見えたわけじゃないけど、不思議とそれがわかる。
「あのさ……ありがとう。俺、炎上なんて初めてで。誰の前でも平気なフリしてたけど、本当はすごく怖かったんだ」
淡々とした言い方が、かえって傷の深さを物語っているようで胸が痛くなる。暴力的な言葉の数々を思い出すと、俺まで苦しかった。暁斗がどれほどつらかったかなんて、想像するに余りある。
「世界の誰も俺の味方じゃないんだなって、大げさじゃなく思えてきた時にさ。流れ変わったぞってメンバーに教えてもらって。……あのポスト、夕也だってすぐにわかった」
「あの、動画を消すように言ってくれたのは五十嵐で。俺は、全然そういうことはできなかったんだけど……」
ごにょごにょと言った俺に、暁斗は「だけど」と続けた。
「あれは間違いだって、はっきりと言葉にしてくれたのは夕也だけだったよ」
暁斗が笑う。それだけで、もっとやりようがあったよなとか、五十嵐たちがいなかったら何もできなかったなとか、そういう葛藤がきれいに吹っ飛んでしまう。
――暁斗が笑ってくれたから、いいのかな。
結局のところそう思ってしまう俺って単純だと、我ながらあきれる気持ちもある。でも、仕方ないじゃないかとも思う。好きなんだから。
「それに、こっちも嬉しかった」
と、暁斗はスマホを取り出した。少しの間操作してから、画面を俺に向ける。
「あ、これ……」
あのSNSの、俺のポストが表示されていた。事実を伝える淡々とした告発のほうではない。そのあとに投稿した、感情のままに書き連ねた文章たちだ。
〈傷が嫌いでした。メイクで傷を隠せたことで自信が持てたけど、中身は何も変わってないと言われ、ショックを受けていた時に三橋くんが僕をかばってくれました〉
〈メイクをしてようがしてまいが、僕の魅力は変わらないと言ってくれた。ただの友達に過ぎない僕を、彼はアイドルという立場があるにもかかわらずかばってくれたんです。それが僕は、泣きたいほど嬉しかった〉
〈そんな優しくて強い暁斗が誤解されたままなだなんて、僕は嫌です。だからこうして事実を発信しました〉
――うわ。
頬に熱が集まるのがわかる。だって、あまりにむき出しの感情が書かれていたから。あの時は必死で気づかなかったけれど、今さら恥ずかしくてたまらなくなってきた。……暁斗って呼んでるし、途中から。
暁斗はどんな顔をしているんだろうと思ったら、目が動かせなくなる。スマホに視線を固定したままの俺に、暁斗は「俺、本当に嬉しかったよ」と静かに言った。
「もう誰も、俺のことなんか好きじゃないのかなって思ってたところに、こんなふうに言ってもらえて……。夕也はきっと、誰が相手でもこうしたんだろうけど」
ありがとう、と続いた声は震えている。顔を上げると、揺れるまなざしに射貫かれた。迷子みたいな、泣きそうな目。
どうしてだろう。その瞬間に、俺の口はするりと言葉をつむいでいた。
「好きだから」
形のいい目が見開かれ、揺れていた視線がピッと一点で留まる。異音に耳を澄ませる猫みたいな顔で、暁斗は俺をまじまじと見つめた。まったく予期していなかった事態に、心の底から驚き、戸惑っているのがよくわかった。
――言わなきゃよかった。
心の声とはうらはらに、俺の口はもう一度「好きだよ、暁斗」と繰り返す。
「俺だって、本当は怖かったよ。こんなこと、普段の俺だったら絶対しない。だけど暁斗が誤解されてるほうが嫌だった。好きだから」
行き場のなかった言葉たちが、口から次々にあふれて止まらなくなる。暁斗はそんな俺を、目を見開いたまま見つめ続けている。
「……最初は、友達だからかと思ってた。でも違う。暁斗は俺をまっすぐだなんて言うけど、まっすぐなだけじゃいられなくなる。嫉妬したり寂しくて泣きたくなったり、でもそんな自分を知られなくないって思ったり……暁斗以外に、そんな気持ちになったりしない」
最後のほうは、声が震えてしまった。「ごめん」と付け足すと、自分でもびっくりするくらいか細い声になる。
「言うつもりなかったのに、ごめん。……こんなこと言われても困るよな。ごめん、本当に――」
声が浮く。ふわりと甘い香りがして、ぬくもりに包まれる。やわらかな髪が首筋をくすぐった。その感触に、抱きしめられたあの日の記憶がよみがえった。
心拍が一気に跳ね上がったのは、背中に回された腕の力があの日よりも強かったからだ。
「夕也は本当に……いつだって、俺がほしい言葉をくれるな」
俺の肩に頭を擦りつけるようにして、暁斗が言う。その言葉の意味を考えるより先に、暁斗が顔を上げて俺の目を覗きこんだ。
「俺たち、両想いってことでいいの?」
両想い。
意味が理解できるまでに、少し時間がかかった。
「……え?」
夢なのか? と真っ先に思った。だって、暁斗が俺と同じ気持ちでいるなんて、そんなのあまりに都合がよすぎるだろう。
けれど暁斗は、俺の戸惑いを吹き飛ばすみたいに笑った。
「俺も、夕也が好きだよ」
「……うそ」
やっとのことでそれだけ言った。喜びより先に、驚愕がゆるゆるとやってくる。
――俺のことを好き? 暁斗が?
「うそじゃない。なんなら全部言おうか、好きなところ。まっすぐでうそがないところが好き。誰かのために、ためらわずに動けるところが好き。メイクして変わろうとがんばってるところも好きだったけど、メイクがなくたってそういう根っこの部分は変わらない。……そういうところが、一番好きだ」
「ま、待って待って! ちょっと、ついていけないっていうか……」
さえぎるように手を振ると、暁斗は不服そうに「待たない」と言った。
「夕也がついてこられなくたっていいよ別に。俺、ずっと我慢してたんだからな。あー、晴れて両想いならいくらでも言える、これから」
「ずっとって……いつからなわけ」
他にもいろいろ気になる部分はあったけど、とりあえずそれだけ尋ねた。暁斗はしばらく視線をさまよわせてから、
「わかんね」
と、照れたように笑う。その笑顔を見たら、驚愕も戸惑いも溶けるようにして消えていった。……どういうわけだろう。暁斗は本当に俺と同じ気持ちなんだって、その笑顔を見てわかったから。
「気づいたら、好きだったから。いつからかわかんないや」
「……俺も」
つぶやいて、暁斗の背中に腕を回す。鎖骨のあたりに額を寄せたら、泣きそうになった。あたたかくて、嬉しくて、幸せで。その全部が一緒くたになって、胸を満たす。
メイクに向き合う時の真剣なまなざし。好きなものを語る目の輝き。俺さえ知らなかった、俺の長所を見出す観察力。心から笑った時、目尻に浮かんだ笑い皺。――そういう一つ一つが重なって、気づいたら好きという感情を連れてきていた。
「暁斗はさ、俺でいいの?」
尋ねると、「は?」と不機嫌そうな声が降ってくる。
「俺で、ってなんだよ。夕也以上にいいやついるなら連れてきてほしい。……ていうか、夕也こそ俺でいいわけ」
「なんで」
「俺、とうぶんアイドルでいるよ。好きな仕事だし。……夕也以外にも好き好き言いまくるし、外でロクに手も繋げないようなやつだよ、俺は」
そんなのわかりきってる。だから俺は、暁斗に何も言わないって決めていた。
抱きしめる腕はそのままで、顔を上げて尋ねる。
「ファンへの『好き』と、俺への『好き』は同じ?」
「全然違う。……こんなの、ファンには絶対に言えないけど」
ムスッとした顔に、思わず笑ってしまう。こんな表情、たぶんファンの前では絶対にしないだろうから。
「だったらそれで十分だ」
――俺だけが知ってる暁斗の顔があるなら。
――俺だけに見せる暁斗の欲があるなら。
そんな心の声が伝わったみたいに、暁斗は再び俺の肩口に頭を寄せた。
「古橋さんに見つかったら怒られるな。会社でやるなって」
鼓膜を震わせるその声がくすぐったくて、俺は肩をすくめる。そうして、暁斗の耳元でささやいた。
「いいよ。その時はまた、俺が助けるよ」
「どうやって?」
「やっと両想いになったところなので許してくださいって言う」
「助けになってねえ」
暁斗が心底おかしそうに笑った。目尻に浮かんでいるであろう、いとしい笑い皺のことを俺は思う。そうして心の中だけで、好きだ、ともう一度つぶやく。
――だから、世界に味方が一人もいなくなったって。何度だって、暁斗を助けるよ。
「はあ、キスしたいな」
暁斗が耳元でそんなことを言ったから、びっくりしたけれど。俺としてもそれはやぶさかでないというか、むしろしてみたいという気持ちが大きかったので、迷った末に尋ねてしまう。
「……しないのか?」
暁斗はバッと顔を上げて、俺をまじまじと見てから「しないっ」と断言する。みるみるうちに頬が赤く染まっていって、こんな暁斗は初めて見るなあなんてのんきに思う。
「今したら次の仕事に支障が出るからしない」
それがあんまり早口だったから、俺は思わず笑ってしまった。
