幼馴染の鳴海潤がよく笑うようになったことに、森蔭耀太が気づいたのは、始業式から二週間ほど経った頃だった。

二学期初日の始業式。平井明日香という転校生がクラスにやってきた。前髪が重く、眼鏡をかけている。おまけに声も小さい。見た目だけで判断してはいけないと分かってはいたが、暗そうな子だなと思ってしまったのを覚えている。

その平井が鳴海の隣の席になったと聞いて、鳴海は本当に隣人運がないなと思ったものだったが、始業式の翌日から二人はいつも一緒にいた。

鳴海が心を開いているのなら、平井もきっと悪い子ではないのだろう。二人の後ろ姿を眺めながら、森蔭はそう思っていた。

「潤〜、平井くん。俺も一緒に行っていい?」

「おー、いいぞ」 

「うん、もちろん」

平井は森蔭をチラリと見て、「明日香でいいよ」と笑った。見た目に反して、凛とした綺麗な声だ。

「じゃあ明日香ね。二人とも昨日から急に仲良いじゃん」

詳しく聞いてみると、どうやら好きなものが一緒らしく盛り上がったらしい。もちろん、鳴海の好きなものはほぼ森蔭も通ってきているので、三人の会話は自然と弾んだ。

「いや〜明日香って、もっと無口な子かと思ってたけど、結構話すんだな」

「デリカシーがないやつだな、お前は」

「いや、でもほんとに」

そんなやりとりを聞いて、平井が笑う。

「明日香も、笑うところじゃないぞ。怒っていいんだからな、今の」

「いいんだよ」

平井はさらりと言った。

「よく言われるから、もう慣れてるよ。耀太みたいに、ちゃんと分かってくれる人がいればそれでいいんだ」

その言葉に、森蔭は少し驚いた。
自分のことを誤解されたままでいいなんて、思っているわけじゃなかったんだな。そんな意外な一面が見えた気がした。