いつも待ち合わせている改札横のカフェに入る。待ち合わせのときに覗いたことはあったけど、中に入るのは初めてだった。室内は暖かく、コーヒーのいい香りが漂う。
「俺、この店入るの初めてだわ」
鳴海たちは店の奥のソファーがけの席に座る。赤いベロア素材の生地は、触り心地がいい。
「俺も。いつも待ち合わせの時に覗くくらい」
黒の皮革で覆われたメニューを開く。コーヒーやソフトドリンクはもちろん、しっかりとしたご飯系にデザートまで充実している。
時刻は17時半を少し過ぎた頃。家に帰れば夜ご飯が待っていると思うと、ドリンクだけ頼むのが無難だと思った。
「潤くん、何飲む?」
「俺、ホットコーヒー」
「じゃあ俺は、ホットのカフェラテにする」
店員に注文をして、届くのを待つ。店内にはジャズが控えめに流れているが、二人のテーブルは無言だった。
何か言わなければいけない気がするのに、何も言いたくないし、聞きたくもない。緊張からか、無意識にソファの生地を撫でていた。
5分ほどでドリンクが届いた。飲み口と皿のラインがゴールドで縁取られたティーセットは、全体が白を基調としている。カップもソーサーも、縁から5センチほどの幅に青いマーブル模様が施されていた。
砂糖とミルクが添えられているが、鳴海はどちらも使わずにコーヒーに口をつけた。ブラックで飲めるんだ——と、この場にそぐわない呑気なことを思いながら、平井もカフェラテに口をつける。甘さ控えめで飲みやすい。今日みたいな寒い日にはぴったりだ。
「さっき、南に呼び出されて、告白された」
鳴海の口から発せられた“告白”という言葉。落ち着いていたはずの心臓が、またうるさくなり出す。
「うん、みんなも南さんが告白するんじゃないかって思ってたと思う」
「付き合うの?」—そう口から出たのは、自分を守るためだった。傷つく準備はできている。殺されるなら、一撃じゃないと後が辛いだけだ。早く、早く答えを言ってほしい。少しずつ首を絞められている感覚から、一刻も早く解放されたかった。
鳴海の顔が見られない。平井は俯き、処刑のタイミングを待った。
「付き合わないよ」
鳴海の答えは、処刑取り消しを高らかに宣言するものだった。やっと息が吸えた気がして、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。しかし、次の一言で平井はまた打ちのめされる。
「好きな人いるから」
鳴海には、好きな人がいる。平井はまったく気づかなかったと思った。南を振る理由なんてないと思っていたが、好きな人がいるのであれば話は別だ。
その事実を、平井は知りたくなかった。いっそのこと南と付き合ってくれた方が、まだマシだったかもしれない。
森蔭がこのことを知っていたからこそ、鳴海が振ると確信していたのだと、今さら気づく。
そして、鳴海の「話がある」というのは、その好きな人についてだったのか、とも。
「俺、この店入るの初めてだわ」
鳴海たちは店の奥のソファーがけの席に座る。赤いベロア素材の生地は、触り心地がいい。
「俺も。いつも待ち合わせの時に覗くくらい」
黒の皮革で覆われたメニューを開く。コーヒーやソフトドリンクはもちろん、しっかりとしたご飯系にデザートまで充実している。
時刻は17時半を少し過ぎた頃。家に帰れば夜ご飯が待っていると思うと、ドリンクだけ頼むのが無難だと思った。
「潤くん、何飲む?」
「俺、ホットコーヒー」
「じゃあ俺は、ホットのカフェラテにする」
店員に注文をして、届くのを待つ。店内にはジャズが控えめに流れているが、二人のテーブルは無言だった。
何か言わなければいけない気がするのに、何も言いたくないし、聞きたくもない。緊張からか、無意識にソファの生地を撫でていた。
5分ほどでドリンクが届いた。飲み口と皿のラインがゴールドで縁取られたティーセットは、全体が白を基調としている。カップもソーサーも、縁から5センチほどの幅に青いマーブル模様が施されていた。
砂糖とミルクが添えられているが、鳴海はどちらも使わずにコーヒーに口をつけた。ブラックで飲めるんだ——と、この場にそぐわない呑気なことを思いながら、平井もカフェラテに口をつける。甘さ控えめで飲みやすい。今日みたいな寒い日にはぴったりだ。
「さっき、南に呼び出されて、告白された」
鳴海の口から発せられた“告白”という言葉。落ち着いていたはずの心臓が、またうるさくなり出す。
「うん、みんなも南さんが告白するんじゃないかって思ってたと思う」
「付き合うの?」—そう口から出たのは、自分を守るためだった。傷つく準備はできている。殺されるなら、一撃じゃないと後が辛いだけだ。早く、早く答えを言ってほしい。少しずつ首を絞められている感覚から、一刻も早く解放されたかった。
鳴海の顔が見られない。平井は俯き、処刑のタイミングを待った。
「付き合わないよ」
鳴海の答えは、処刑取り消しを高らかに宣言するものだった。やっと息が吸えた気がして、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。しかし、次の一言で平井はまた打ちのめされる。
「好きな人いるから」
鳴海には、好きな人がいる。平井はまったく気づかなかったと思った。南を振る理由なんてないと思っていたが、好きな人がいるのであれば話は別だ。
その事実を、平井は知りたくなかった。いっそのこと南と付き合ってくれた方が、まだマシだったかもしれない。
森蔭がこのことを知っていたからこそ、鳴海が振ると確信していたのだと、今さら気づく。
そして、鳴海の「話がある」というのは、その好きな人についてだったのか、とも。
