17時を少し過ぎた頃、鳴海は教室に戻ってきた。

16時半前に出て行ったから、およそ30分ぶりだ。残っていたクラスメイトたちは我先にと鳴海に近づくが、鳴海は真っ直ぐ平井の元にやってきた。

「明日香、ごめん。待たせた」

いったいどんな長い告白をされたのか。そんな冗談が脳裏に浮かぶものの、口から出ることはなかった。南と鳴海の間にあったことを、なんとなく聞きたくなかった。

鳴海は周囲の人間を適当にあしらい、平井を連れて下駄箱へ向かった。

外はまだ一面銀世界だ。地面に残る雪を踏むたびに、足跡が刻まれる。降り積もった雪たちが明日には溶けてしまうと思うと、少しもったいないように感じた。

「雪だるまでも作って帰る? どうせ明日には溶けちゃうけど」

鳴海が、まるで平井の心を見透かしたように言う。思わず「エスパー?」と口にすると、鳴海は今朝のようにまた笑った。

さすがに寒いと、ここ数日つけ始めたマフラーの下で鳴海が笑う。紺色一色の、どこか有名なブランドのものらしい。決してもこもこではないものの、保温性は抜群だと言っていたのを思い出す。冬の鳴海は、特別カッコよく見える気がして、ドキドキする。

「寒いからやだ」

「じゃあ、カフェに寄ってから話そうよ。俺、明日香に話があるんだ」

『ほら、行くよ』と歩き出す鳴海。その背中を追いながら、平井の胸が痛いほど高鳴った。

話って、きっと告白のことだよな。そう思うけれど、結局何も言えず、黙って鳴海を追いかけた。

「雪とか見るの久しぶりだな」

「日本って、あんまり雪降らないんだっけ?」

平井はカナダの冬を思い出す。マイナスの気温が当たり前で、雪なんてしょっちゅうだった。だからこそ冬は嫌いだが、雪は嫌いじゃなかった。むしろ好きな方だと思う。

大人になったらどうか分からないけれど、今のところは雪を見ると地味にテンションが上がるし、触りたくなる。冷たくて、ふわふわで、握れば硬くなる。そしてそのうち溶けてしまう。そんな刹那的なところが好きなのかもしれない。

「ここはあんまり降らないかな。北海道とか北の方は、毎年降ってるイメージ」

「そうなんだ。カナダは毎年降るから、実はあんまり珍しいって思わなくてさ」

「あっちって、冬寒いんだっけ?」

「マジで人が住める温度じゃないから」

話しながら歩いていると、あっという間に駅に着いた。10分なんて距離は案外近いのかもなと、平井は思う。