相変わらずホームルーム後の教室は騒がしく、それぞれが自分のことに集中している。午後には雪が止み、天気も徐々に回復しつつある。青天まではいかないが、朝に比べて雲も薄くなった。まだまだ寒いだろうが、雪が降るほどではないということだ。
平井はカバンに教科書を詰めながら鳴海を見る。朝は一緒に来たけど、帰りはどうするのだろう。鳴海は身支度を終えて座ったまま携帯をいじっていた。誰かを待っているのか、それとも何か用事があって時間を潰しているのだろうか。
声をかけようか悩んでいた時、一人の女の子が現れた。
「潤いる?」
聞き慣れない声だった。扉の方を見ると、綺麗な女の子が立っていた。
「誰かと思ったら、うちの学校のマドンナ様じゃないですか」
「これはこれは、大きいわんちゃんだこと」
「誰が犬だよ!」
「そっちこそマドンナって何よ、今どき言わないからね、そんなこと」
森蔭と親しそうに話している女子は隣のクラスの南星羅だ。学年で一番綺麗な女子で、同学年はもちろん学校中の男子から一目置かれている存在だ。
左目の下に泣きぼくろがあり、可愛い笑顔が評判だ。サッパリした性格の割に可愛いもの好きというギャップが人気である。部活は弓道部に入り、去年は全国大会にも出場した。
文武両道で頭脳明晰、完璧美少女と名高い彼女は鳴海に用事があるらしい。
「潤〜南がお前をご所望だよ」
「ちょっと変な言い方やめてよ」
鳴海は触っていた携帯から顔を上げると南に近づいていく。
「南じゃん、なに?」
「いや、あのさ。このあとって時間ある?」
「あるよ」
「話があるんだけど」
南の口から発せられた『話がある』という言葉に、クラス中の誰もが察した。これは告白に違いないと。クラス中の誰もが察し、教室の空気が静まり返った。
あの美人が誰とも付き合わないのは、好きな人がいるからだという噂が、今この瞬間確信に変わった。
南星羅の好きな人は鳴海潤だ。
「ここじゃ話せない話?」
「うん」
「分かった」
鳴海は歩いていく南に後を追いかけようと一歩踏み出す。平井は南を追いかける鳴海を見られなかった。南について行き、告白される。なんて答えるのだろうか。
平井は詳しくは知らなかったが、男子たちが南星羅の話をするのを聞いたことがある。やれ誰々が告白して振られたらしいとか南が誰かと一緒にいるところを見たとか、所詮噂程度のことだったが、よく話題にあがるので注目されている子なんだろうなという理解でいた。
転校してから一度も南を見ていないと言ったら嘘になるが、平井もぼんやりしているところがあり、クラスメイト以外にあまり興味を示さなかった。しかし、南星羅本人を見て確かに男子たちが注目する、噂になるだけあるなと思った。
長い髪は艶やかでサラサラとしており、丁寧にケアされているのがわかる。肌も白く、目は丸くて大きい。一見すると冷たい美人に見えるが、笑った顔は平井も可愛いと思った。
あの南星羅からの告白を断る男が、この学校にいるだろうか。鳴海が良い返事をしたら嫌だな。鳴海を見ずに、素早く身支度を整える。鳴海が教室を出たらすぐに帰ろう。だから早く追いかけて。でも追いかけていくということは告白をされるということで。鳴海にもう少しだけ教室にいてほしいなと思った。
しかし、それでは自分がいつまでも帰宅できないということに気付いた。このまま教室にいてほしい気持ちと、早く行ってほしい気持ちが交互にせめぎ合う。
「あ、明日香!俺が帰ってくるまで待ってろよ」
不意に名前を呼ばれ、鳴海の方を見てしまった。クラスメイトたちも視線を鳴海たちから平井に変える。
「一緒に帰るから」
だから待ってて。そう言い残して、鳴海は教室を出て行った。平井は驚きのあまりその場で固まってしまう。言葉も出てこない。
平井はカバンに教科書を詰めながら鳴海を見る。朝は一緒に来たけど、帰りはどうするのだろう。鳴海は身支度を終えて座ったまま携帯をいじっていた。誰かを待っているのか、それとも何か用事があって時間を潰しているのだろうか。
声をかけようか悩んでいた時、一人の女の子が現れた。
「潤いる?」
聞き慣れない声だった。扉の方を見ると、綺麗な女の子が立っていた。
「誰かと思ったら、うちの学校のマドンナ様じゃないですか」
「これはこれは、大きいわんちゃんだこと」
「誰が犬だよ!」
「そっちこそマドンナって何よ、今どき言わないからね、そんなこと」
森蔭と親しそうに話している女子は隣のクラスの南星羅だ。学年で一番綺麗な女子で、同学年はもちろん学校中の男子から一目置かれている存在だ。
左目の下に泣きぼくろがあり、可愛い笑顔が評判だ。サッパリした性格の割に可愛いもの好きというギャップが人気である。部活は弓道部に入り、去年は全国大会にも出場した。
文武両道で頭脳明晰、完璧美少女と名高い彼女は鳴海に用事があるらしい。
「潤〜南がお前をご所望だよ」
「ちょっと変な言い方やめてよ」
鳴海は触っていた携帯から顔を上げると南に近づいていく。
「南じゃん、なに?」
「いや、あのさ。このあとって時間ある?」
「あるよ」
「話があるんだけど」
南の口から発せられた『話がある』という言葉に、クラス中の誰もが察した。これは告白に違いないと。クラス中の誰もが察し、教室の空気が静まり返った。
あの美人が誰とも付き合わないのは、好きな人がいるからだという噂が、今この瞬間確信に変わった。
南星羅の好きな人は鳴海潤だ。
「ここじゃ話せない話?」
「うん」
「分かった」
鳴海は歩いていく南に後を追いかけようと一歩踏み出す。平井は南を追いかける鳴海を見られなかった。南について行き、告白される。なんて答えるのだろうか。
平井は詳しくは知らなかったが、男子たちが南星羅の話をするのを聞いたことがある。やれ誰々が告白して振られたらしいとか南が誰かと一緒にいるところを見たとか、所詮噂程度のことだったが、よく話題にあがるので注目されている子なんだろうなという理解でいた。
転校してから一度も南を見ていないと言ったら嘘になるが、平井もぼんやりしているところがあり、クラスメイト以外にあまり興味を示さなかった。しかし、南星羅本人を見て確かに男子たちが注目する、噂になるだけあるなと思った。
長い髪は艶やかでサラサラとしており、丁寧にケアされているのがわかる。肌も白く、目は丸くて大きい。一見すると冷たい美人に見えるが、笑った顔は平井も可愛いと思った。
あの南星羅からの告白を断る男が、この学校にいるだろうか。鳴海が良い返事をしたら嫌だな。鳴海を見ずに、素早く身支度を整える。鳴海が教室を出たらすぐに帰ろう。だから早く追いかけて。でも追いかけていくということは告白をされるということで。鳴海にもう少しだけ教室にいてほしいなと思った。
しかし、それでは自分がいつまでも帰宅できないということに気付いた。このまま教室にいてほしい気持ちと、早く行ってほしい気持ちが交互にせめぎ合う。
「あ、明日香!俺が帰ってくるまで待ってろよ」
不意に名前を呼ばれ、鳴海の方を見てしまった。クラスメイトたちも視線を鳴海たちから平井に変える。
「一緒に帰るから」
だから待ってて。そう言い残して、鳴海は教室を出て行った。平井は驚きのあまりその場で固まってしまう。言葉も出てこない。
