正反対の隣人A

用事がある日に限って頼まれごとが増えるのは、なんでだろう。職員室に日直日誌を持っていくだけのはずが、気づけば鳴海は屋上で掃除をしていた。

「いや〜鳴海、悪いな」

「すぐ終わるって言ってましたし。だからまあ、いいかなって」

鶴見は放課後、屋上を掃除するよう教頭に頼まれていた。先生たちは月に一度、放課後に点検も兼ねて清掃をしているらしい。

そこに偶然現れた鳴海が、『夕暮れ時の屋上なんて、そうそう入れるもんじゃないぞ』と言葉巧みに手伝いに巻き込まれたのだ。

鳴海自身は、屋上に特別興味があったわけではない。ただ、鶴見のあるひと言で手伝う決心をした。

「18時までだったら、ここの屋上で好きにしてくれていいぞ」

本来は平井と教室で話すつもりだったが、今日の様子では教室では落ち着いて話せそうになかった。ちょうどふたりきりになれる場所を探していたのだ。

平井にはすでに連絡済みで、鶴見が職員室に戻ったタイミングで来てもらうように伝えてある。

まだ17時前だというのに、空はすでにオレンジから紺色へと染まり始めている。冬本番だな、と鳴海は思った。

十分ほどで掃除は終わり、鶴見は屋上の鍵を鳴海に託すと、『帰るときに職員室に預けにきて』と言い残して去っていった。

【今終わった。待たせてごめん。上で待ってる】

【うん、今行くね】

鳴海は屋上から、部活中の生徒たちや帰宅する人たちの姿をぼんやり見下ろす。 

普段は滅多に来ることのない屋上。ひとりでいると、広く感じる場所だ。でも、昼休みなんかは人がたくさん集まっていたりするのだろうか、と思うと、少し不思議な気持ちになる。

ギィッと寂れた扉が開く音がして、鳴海は振り返った。平井がいた。

「潤くん、ここ寒い」

「あ〜じゃあ、中の階段で話すか」

「うん。……あ、でも屋上って滅多に来ないから新鮮で、いいね。ベンチで話そ」

「どっちだよ」

「ベンチ」

たぶん今日、初めてちゃんと会話した。

少し時間が経って、お互いに気持ちが落ち着いてきたのか、いつもの調子で話せたことに、鳴海は安堵した。
ダッフルコートにマフラー姿の平井が、『ほんと寒いね』と言いながらベンチに座る。

鳴海はふと、平井が"この冬の必需品"と言っていた、あの暖かそうなチェック柄のマフラーのことを思い出した。