「それに潤くんだってモテてるし、告白もたくさんされてるよね? 俺がモテたら嫌なの? ムカつくの?」
「ムカつく」
「なんで?」
「なんでも」
「意味わかんない」
売り言葉に買い言葉で、言い争いが続きそうだったところに、森蔭が割って入った。
「明日香は言い過ぎだし、潤は何が言いたいのかわかんないから、もうやめろ」
──そんなに俺が女子と過ごすのが嫌なの?
──俺がモテたら嫌なの?
平井の言葉に、鳴海は今度こそ何も言えなくなった。チクリと胸に刺さる痛みは何だろう。別に平井に彼女ができたって、俺には関係ないはずだ。むしろ友人の幸せを喜ぶべきだろう。おめでとうって。そう考えた瞬間、首がキュッと締まる感覚があった。じわじわと締め付けられ、呼吸が浅くなる。
明日香に彼女ができたら、おめでとうって言えるのか?
「待っててもらったのにごめん。今日は一人で帰る」
寒いはずなのに、怒りの興奮で汗が出そうだった。熱を冷ますためにも、今日は鳴海と一緒に帰らないほうがいい。いつも来ているダッフルコートも着る気になれず、抱えて外に出る。後輩からもらった紙袋も忘れずに持って。
鳴海を思考の海から現実に戻したのは、森蔭の声だった。
「お前さ、無自覚に明日香のこと囲ってるの気づいてない?」
「ア? 何がだよ」
「マジか〜、無意識でそれってまじでタチ悪いな」
森蔭の言葉が理解できず、余計にイライラする鳴海。平井の前では抑えていた苛立ちを隠さなくなり、訳わかんね〜と頭を掻く。森蔭は『俺に当たってくんなよ』と言いつつも話を聞いてくれるようだ。
「なんでそんなにイラついてんのか、自分で考えろよ」
「考えても分かんねえからイライラするんだろ」
もっと真面目に考えろ、と森蔭は軽く鳴海の肩を叩く。外はすっかり暗くなり、紺色の空にまばらな星が浮かんでいる。
「可哀想な潤くんに1個だけヒントをあげよう」
"お前は明日香が誰かのものになるのが嫌なんだよ"
森蔭は鳴海を見たが、鳴海はうーんとうなり、答えには辿り着いていない様子だった。
「さっき俺、明日香に彼女ができるって思った時、おめでとうって言えるかなって考えた」
「うん、それで?」
「言えるかなって思ったら、なんか胸が苦しくなった」
森蔭は、鳴海がそんなことをさっきの会話中に思っていたとは知らず、驚いた。本人は気づいていないが、鳴海にとって平井は特別な存在だ。特別な存在に恋人ができる。それを想像して胸が苦しくなる。答えはひとつしかない。
「ちなみに、その心は?」
「寂しいなって思った」
「寂しい?」
「そう。明日香に彼女ができたら、昼に一緒に食べられなくなったり、一緒に帰れなくなったりするのかなって思うと寂しい」
幼馴染が恋に気づく瞬間に立ち会えるはずだったのに。ゴールの一歩、いや二歩手前で着地したような気分だ。まさに、不意を突かれたみたいな感じ。
「寂しい。寂しいかあ」
『お前って馬鹿なの?』と森蔭はまた鳴海の肩を小突く。今度は結構強めに。
「いてえな、何すんだよ!」
「そうじゃねえだろ。それに意外とお前の恋愛観が少女漫画みたいで、ちょっと寒くなっただけ」
「はあ? どういうことだよ」
「自分で考えろ」
自分で理解しないと意味がないから、森蔭はそれ以上は言わなかった。寂しいと好きの境界線はいつも曖昧で、人それぞれ違うのだから。
「ムカつく」
「なんで?」
「なんでも」
「意味わかんない」
売り言葉に買い言葉で、言い争いが続きそうだったところに、森蔭が割って入った。
「明日香は言い過ぎだし、潤は何が言いたいのかわかんないから、もうやめろ」
──そんなに俺が女子と過ごすのが嫌なの?
──俺がモテたら嫌なの?
平井の言葉に、鳴海は今度こそ何も言えなくなった。チクリと胸に刺さる痛みは何だろう。別に平井に彼女ができたって、俺には関係ないはずだ。むしろ友人の幸せを喜ぶべきだろう。おめでとうって。そう考えた瞬間、首がキュッと締まる感覚があった。じわじわと締め付けられ、呼吸が浅くなる。
明日香に彼女ができたら、おめでとうって言えるのか?
「待っててもらったのにごめん。今日は一人で帰る」
寒いはずなのに、怒りの興奮で汗が出そうだった。熱を冷ますためにも、今日は鳴海と一緒に帰らないほうがいい。いつも来ているダッフルコートも着る気になれず、抱えて外に出る。後輩からもらった紙袋も忘れずに持って。
鳴海を思考の海から現実に戻したのは、森蔭の声だった。
「お前さ、無自覚に明日香のこと囲ってるの気づいてない?」
「ア? 何がだよ」
「マジか〜、無意識でそれってまじでタチ悪いな」
森蔭の言葉が理解できず、余計にイライラする鳴海。平井の前では抑えていた苛立ちを隠さなくなり、訳わかんね〜と頭を掻く。森蔭は『俺に当たってくんなよ』と言いつつも話を聞いてくれるようだ。
「なんでそんなにイラついてんのか、自分で考えろよ」
「考えても分かんねえからイライラするんだろ」
もっと真面目に考えろ、と森蔭は軽く鳴海の肩を叩く。外はすっかり暗くなり、紺色の空にまばらな星が浮かんでいる。
「可哀想な潤くんに1個だけヒントをあげよう」
"お前は明日香が誰かのものになるのが嫌なんだよ"
森蔭は鳴海を見たが、鳴海はうーんとうなり、答えには辿り着いていない様子だった。
「さっき俺、明日香に彼女ができるって思った時、おめでとうって言えるかなって考えた」
「うん、それで?」
「言えるかなって思ったら、なんか胸が苦しくなった」
森蔭は、鳴海がそんなことをさっきの会話中に思っていたとは知らず、驚いた。本人は気づいていないが、鳴海にとって平井は特別な存在だ。特別な存在に恋人ができる。それを想像して胸が苦しくなる。答えはひとつしかない。
「ちなみに、その心は?」
「寂しいなって思った」
「寂しい?」
「そう。明日香に彼女ができたら、昼に一緒に食べられなくなったり、一緒に帰れなくなったりするのかなって思うと寂しい」
幼馴染が恋に気づく瞬間に立ち会えるはずだったのに。ゴールの一歩、いや二歩手前で着地したような気分だ。まさに、不意を突かれたみたいな感じ。
「寂しい。寂しいかあ」
『お前って馬鹿なの?』と森蔭はまた鳴海の肩を小突く。今度は結構強めに。
「いてえな、何すんだよ!」
「そうじゃねえだろ。それに意外とお前の恋愛観が少女漫画みたいで、ちょっと寒くなっただけ」
「はあ? どういうことだよ」
「自分で考えろ」
自分で理解しないと意味がないから、森蔭はそれ以上は言わなかった。寂しいと好きの境界線はいつも曖昧で、人それぞれ違うのだから。
