平井は電車に揺られながら、すっかり紺色に染まった秋の空を見ていた。静かな車内の中で、さっきの鳴海の視線と昼休みのことを思い返す。 

──潤は好きな子に意地悪する典型的なタイプだよ。

森蔭の言葉がどうしても気になって仕方がなかった。好きな子って誰のことだろう。確かに鳴海は以前から、いじめるというよりイジってくる感じで、平井の反応を楽しんでいるところがあった。

別にそれが嫌というわけではなく、むしろ仲良くなれた気がして嬉しかった。でも、時折見せる鳴海の言葉が意味深だと言われれば、そんな気もする。鳴海は平井に好意があるのだろうか。

──潤くんは?
──俺だけ?

あの時も、さっきも、鳴海は平井に何て言ってほしかったのだろうか。…わからない。答えが出ない時は、平井はいつも目を閉じて、電車の揺れさえ感じないくらい呼吸を整えるようにしている。

──かわいいよ。

あんなにも言われたくなかった言葉なのに、鳴海から言われると嬉しくて。胸がじんわり温かくなるその感覚は一体なんだったのか。知りたかった。鳴海が自分に向ける気持ちも、自分が鳴海に向ける思いも。