1万5000字近くあった雄大が投稿した小説は、ショッピングモールのフードコートで読み切ってしまった。
読んでいる間は、フードコート内の、ざわざわした人の声やいろんな食べ物の香りなんて気にならなかったのに、読み終えた途端に高校生くらいの男女の楽しそうな会話や、オムライスのいい香りなどが五感を刺激する。
挫折していた雄大にBLの執筆を勧めた本人である俺は、とにかく感想を伝えないと……と思ってすぐに雄大へ電話をかけた。
「もしもし、雄大?」
「なにー?あ、小説投稿したよ」
「うん、読んだ!」
「え?はや……すご……」
雄大の「え?」の声が大きくて、俺の読むスピードに驚いているようだった。
「ありがと。で、どう、だった?」
電話口から雄大の少し不安げな声が聞こえてきた。
「はぇ、あ、えっと」
青春って感じで、俺は好きだなって思った。
雄大はBL書くの結構向いてると思う。
登場人物の2人が羨ましくなるくらい、ずっと楽しそうだった。
早く続き読みたい。
伝えたいことが喉の奥で渋滞を起こして、感想が詰まってしまった。
「はは。やっぱ微妙だったかな」
俺の変な態度のせいで、雄大は乾いた笑いをしてから、不安そうな声になった。
「ちがうちがう!ごめん、なんか何から言えばいいかって思ってたら、言葉が詰まっただけ。作品、良かったよ!なんか、水族館、楽しそうだった。なんて言うんだろう。昔のことも思い出しながら、高校生としての自分たちも楽しんでる2人だけの世界というか……」
なかなか自分の気持ちをうまく言語化しきれない。
「ほんと?2人ならではの空気が出せたらなぁって思ってさ。昔からの関係があるからこそ、感じる楽しさというか……まぁ、まだまだなんだけどさ」
雄大は早口で、こだわりを話してから、へへっと笑った。
「でも感想嬉しい。ありがと」
普段大きなリアクションを取らない雄大の嬉しそうな声が聞こえてきて、こんなに喜んでくれるなら直接感想を伝えて、喜んでる姿を見れば良かった。
「俺、今回の作品読んで、やっぱり雄大の書く小説好きだなって思った。夕貴も彰人もその辺にいそうで、等身大というか、なんていうか……心がほわっとしたり、ぎゅってなったり、ドキドキしたり騒がしくなった。感想、音ばっかなんだけど」
やはり、このほわっとか、ぎゅって気持ちを、うまく表現できる言葉が見つけられない。
「それにさ、やっぱ雄大は書くのが好きなんだろうなって思ったし、雄大は結構BL書くの向いてると思った……」
「そう?」
「うん。なんか、人!って感じなんだよ。わかる?」
「うーん……朝陽の一生懸命さはわかる。ははっ」
うまく言葉で雄大の心に響かせられなくて、もどかしい。
「ありがとう、朝陽。いつも小説書いててさ、読んでくれた人の心が『ほわっ』でも『ずぅん』でも、『しーん』でも、何か感じとってくれるのってすごい嬉しいんだよね……」
「そうなの?」
「うん。きっと受け取り方は、読んでくれた人の感性によって違うだろうし。正解を探すために読んでるんじゃないから、読んだ人によって色んな感じ方ができる作品にしたいって思ってる。それにさ、たくさんある作品の中から見つけて、読んでくれるのって本来すごいことだし、できるだけ楽しませたい……と思ってて。……言葉にすると恥ずかしいね、これ」
「へぇ……」
雄大の創作の考え方を聞いて、何かもっともな感想を言おうと必死になっていた気持ちが楽になった。
俺は、雄大の作品を読むと「大丈夫だよ」って、そっと背中を撫でられているような感覚になる。
テンプレートのような恋愛ができずにいる自分自身を受け入れてもらえているような。
「小説ってさ、読んでる間は心が旅をしてるみたいだなって思うんだよね」
「旅?」
「そう。だってさ、登場人物って自分の分身じゃないのに、読んでると主人公と一緒に腹が立ったり、喜んだり。悪者に共感する場合もあるかも。そうするとさ、どんどん自分じゃないのに、自分のことみたいに思えるから面白いなぁって思ってる」
「たしかになぁ……」
「男の子になってみたいとか、スリルを体験したいとか、共感したいとか色々あるでしょ」
「あー、それはそうかも」
俺はきっと、男女がする普通の、純粋で、誰もが疑問を持たずに応援したくなるような恋に憧れているから、男女の恋愛小説を選んでしまうのだろう。
それに、言われてみれば、小説は自分が実際に主人公になったような没入感が味わえる。
今まで、そんな風に小説を分解して考えたことがなかったから、俺にとって新しい視点だった。
「って、語ってみるけど、実際のところは表現力とか、色々書く力がなかなか上達しなくて難しいんだけどねー。どうやって色んな人の目に止まるかっていうのも難しい」
さっきまでゆったりと語っていた雄大の声が、ケロリと軽くなった。
「雄大の作品、ほかの人も読んでくれると良いな。俺はずっと応援してるぞ」
「……うん。朝陽が応援してくれてるし、今回の作品は頑張ってみるよ。せっかくだからさ」
「うん。俺はずっと雄大の作品のファンだからなっ!」
気持ちが入りすぎて、語尾が強くなってしまった。
「ありがとう、朝陽。優しいね。……ところでさ、朝陽。今どこ?」
さっきまでのしんみりした雰囲気はどこへ行ったのかと思うくらい、明るい雄大の声が聞こえた。
「ショッピングモールだけど?」
「えーと、あのさ……食べ物、なんでもいいから持ってきてくれない?後でお金渡すから」
「はぁ?」
雄大のお願いを聞いて、ハッとした。
「雄大。お前、昼ご飯は?」
「食べてない」
「朝は?
「食べてない」
「昨日の晩は?」
「ちょっとだけ食べた……」
「何を」
「その辺にあったポテチ……」
雄大が学校に来ながら、機嫌よく1週間で書き上げていることに疑問を持つべきだった。
「いつもちゃんと飯食えって言ってるよな?」
「……うん」
雄大はいつもこうだ。
執筆をし始めると、授業のような強制力のあるもの以外に興味が湧かなくなり、人間生活を蔑ろにする。
睡眠はロングスリーパーらしく、基本家のそこら辺で寝落ちている。
食事は冷蔵庫などのストックが無くなると面倒くさがって食べるのを諦めてしまう。
「はぁ……雄大。もう頼むからちゃんと人間生活してくれ。弁当買って持って行くわ。唐揚げ弁当とかでいい?」
「チキン南蛮とかがいい」
「はいはい。俺も雄大の家で食べるわ」
そう言って、雄大の家に急いでチキン南蛮弁当とから揚げ弁当、味噌汁を買って向かった。
読んでいる間は、フードコート内の、ざわざわした人の声やいろんな食べ物の香りなんて気にならなかったのに、読み終えた途端に高校生くらいの男女の楽しそうな会話や、オムライスのいい香りなどが五感を刺激する。
挫折していた雄大にBLの執筆を勧めた本人である俺は、とにかく感想を伝えないと……と思ってすぐに雄大へ電話をかけた。
「もしもし、雄大?」
「なにー?あ、小説投稿したよ」
「うん、読んだ!」
「え?はや……すご……」
雄大の「え?」の声が大きくて、俺の読むスピードに驚いているようだった。
「ありがと。で、どう、だった?」
電話口から雄大の少し不安げな声が聞こえてきた。
「はぇ、あ、えっと」
青春って感じで、俺は好きだなって思った。
雄大はBL書くの結構向いてると思う。
登場人物の2人が羨ましくなるくらい、ずっと楽しそうだった。
早く続き読みたい。
伝えたいことが喉の奥で渋滞を起こして、感想が詰まってしまった。
「はは。やっぱ微妙だったかな」
俺の変な態度のせいで、雄大は乾いた笑いをしてから、不安そうな声になった。
「ちがうちがう!ごめん、なんか何から言えばいいかって思ってたら、言葉が詰まっただけ。作品、良かったよ!なんか、水族館、楽しそうだった。なんて言うんだろう。昔のことも思い出しながら、高校生としての自分たちも楽しんでる2人だけの世界というか……」
なかなか自分の気持ちをうまく言語化しきれない。
「ほんと?2人ならではの空気が出せたらなぁって思ってさ。昔からの関係があるからこそ、感じる楽しさというか……まぁ、まだまだなんだけどさ」
雄大は早口で、こだわりを話してから、へへっと笑った。
「でも感想嬉しい。ありがと」
普段大きなリアクションを取らない雄大の嬉しそうな声が聞こえてきて、こんなに喜んでくれるなら直接感想を伝えて、喜んでる姿を見れば良かった。
「俺、今回の作品読んで、やっぱり雄大の書く小説好きだなって思った。夕貴も彰人もその辺にいそうで、等身大というか、なんていうか……心がほわっとしたり、ぎゅってなったり、ドキドキしたり騒がしくなった。感想、音ばっかなんだけど」
やはり、このほわっとか、ぎゅって気持ちを、うまく表現できる言葉が見つけられない。
「それにさ、やっぱ雄大は書くのが好きなんだろうなって思ったし、雄大は結構BL書くの向いてると思った……」
「そう?」
「うん。なんか、人!って感じなんだよ。わかる?」
「うーん……朝陽の一生懸命さはわかる。ははっ」
うまく言葉で雄大の心に響かせられなくて、もどかしい。
「ありがとう、朝陽。いつも小説書いててさ、読んでくれた人の心が『ほわっ』でも『ずぅん』でも、『しーん』でも、何か感じとってくれるのってすごい嬉しいんだよね……」
「そうなの?」
「うん。きっと受け取り方は、読んでくれた人の感性によって違うだろうし。正解を探すために読んでるんじゃないから、読んだ人によって色んな感じ方ができる作品にしたいって思ってる。それにさ、たくさんある作品の中から見つけて、読んでくれるのって本来すごいことだし、できるだけ楽しませたい……と思ってて。……言葉にすると恥ずかしいね、これ」
「へぇ……」
雄大の創作の考え方を聞いて、何かもっともな感想を言おうと必死になっていた気持ちが楽になった。
俺は、雄大の作品を読むと「大丈夫だよ」って、そっと背中を撫でられているような感覚になる。
テンプレートのような恋愛ができずにいる自分自身を受け入れてもらえているような。
「小説ってさ、読んでる間は心が旅をしてるみたいだなって思うんだよね」
「旅?」
「そう。だってさ、登場人物って自分の分身じゃないのに、読んでると主人公と一緒に腹が立ったり、喜んだり。悪者に共感する場合もあるかも。そうするとさ、どんどん自分じゃないのに、自分のことみたいに思えるから面白いなぁって思ってる」
「たしかになぁ……」
「男の子になってみたいとか、スリルを体験したいとか、共感したいとか色々あるでしょ」
「あー、それはそうかも」
俺はきっと、男女がする普通の、純粋で、誰もが疑問を持たずに応援したくなるような恋に憧れているから、男女の恋愛小説を選んでしまうのだろう。
それに、言われてみれば、小説は自分が実際に主人公になったような没入感が味わえる。
今まで、そんな風に小説を分解して考えたことがなかったから、俺にとって新しい視点だった。
「って、語ってみるけど、実際のところは表現力とか、色々書く力がなかなか上達しなくて難しいんだけどねー。どうやって色んな人の目に止まるかっていうのも難しい」
さっきまでゆったりと語っていた雄大の声が、ケロリと軽くなった。
「雄大の作品、ほかの人も読んでくれると良いな。俺はずっと応援してるぞ」
「……うん。朝陽が応援してくれてるし、今回の作品は頑張ってみるよ。せっかくだからさ」
「うん。俺はずっと雄大の作品のファンだからなっ!」
気持ちが入りすぎて、語尾が強くなってしまった。
「ありがとう、朝陽。優しいね。……ところでさ、朝陽。今どこ?」
さっきまでのしんみりした雰囲気はどこへ行ったのかと思うくらい、明るい雄大の声が聞こえた。
「ショッピングモールだけど?」
「えーと、あのさ……食べ物、なんでもいいから持ってきてくれない?後でお金渡すから」
「はぁ?」
雄大のお願いを聞いて、ハッとした。
「雄大。お前、昼ご飯は?」
「食べてない」
「朝は?
「食べてない」
「昨日の晩は?」
「ちょっとだけ食べた……」
「何を」
「その辺にあったポテチ……」
雄大が学校に来ながら、機嫌よく1週間で書き上げていることに疑問を持つべきだった。
「いつもちゃんと飯食えって言ってるよな?」
「……うん」
雄大はいつもこうだ。
執筆をし始めると、授業のような強制力のあるもの以外に興味が湧かなくなり、人間生活を蔑ろにする。
睡眠はロングスリーパーらしく、基本家のそこら辺で寝落ちている。
食事は冷蔵庫などのストックが無くなると面倒くさがって食べるのを諦めてしまう。
「はぁ……雄大。もう頼むからちゃんと人間生活してくれ。弁当買って持って行くわ。唐揚げ弁当とかでいい?」
「チキン南蛮とかがいい」
「はいはい。俺も雄大の家で食べるわ」
そう言って、雄大の家に急いでチキン南蛮弁当とから揚げ弁当、味噌汁を買って向かった。



