雄大にBL小説を書く手伝いをするなんて、言ったくせに何をすれば良いか全く思い浮かばないまま数日が経った。

大学が前期のテスト期間だったからか、雄大は会っても小説のことを話してこなかった。

こっちからグイグイ行きすぎるのもなぁと思って、そっとしている。


「朝陽。このあと、家来ない?」

前期のテストが終わり、やっとテスト勉強から解放される……と伸びをしていたら、雄大が声をかけてきた。

「おぉ、いいよ」

大体、雄大が突然こんなことを言ってくる時は、たいてい小説の話をしたいときだ。

「朝陽、昼ごはん、なんでもいい?」

よっぽど早く家に帰りたいのか、近くのコンビニを指さしている。

「いいよ。さっと買ってから行こう」

俺たちはコンビニでおにぎりとかカップラーメンとか、適当に買って雄大の家に向かった。

雄大の歩く速さがいつもより速くて、BL小説の執筆に少しは前向きなのかなと思った。


 雄大の家に着くと、部屋の中にはBL漫画やBL小説が、そこら中に置かれていた。

「おい、ゆうだい。この状態はなに。散らかしすぎだろ」

「散らかしてないよ?ちゃんと置いてるじゃん」

雄大が何が?と不思議そうな顔で返事をして、ベッドにドスっと座る。

「はぁ。忘れてた。お前が整理整頓ができないことを」

でも、久しぶりに見たこの散乱具合は、雄大のやる気を感じられて、逆に俺を安心させた。

「それにしてもさぁ……これ、手広く行きすぎじゃないのか?」

爽やかで甘酸っぱそうな学生の表紙の漫画から、学生服を着てギターを手にしている男の子たちの表紙の漫画、表紙が破廉恥すぎて目を覆いたくなるような過激なものまで、ありとあらゆるジャンルのBLが置いてあった。

「せっかく書くなら勉強した方がいいかと思って」

勤勉なんだか、研究熱心なんだか雄大のこういう、のめりこめる力は本当に尊敬する。

「で、一応。考えてみた」

「え、もう?すごいじゃん」

雄大の作品がまた読めるかと思うと、自然と笑みが溢れてくる。

「ホストとか、オメガバース?とかは、まだ難しくてさ。だから、設定はできるだけ等身大に近づけて、幼馴染の高校生ってことにしてみた」

「うんうん、いいじゃん」

ホストとかおめがばーす?はよく分からなかったけれど、等身大の学生という設定だけでもワクワクした。

「で、同じ男子校に通ってるんだけど、お互い好き同士なの。なんで好きになったか、とかはもう少し考えないといけないんだけど……」

雄大が書くBLってどんな感じだろうかと、構想を聞きているとだんだん顔の筋肉が緩む。

「お互い片想いだって思い込んだまま、少しだけアプローチをしてみたりすんのね。だけど、振られるのも、勝手に両思いだって勘違いするのも怖いから、それ以上進めないでいるんだ。最終的には、くっつくんだけど」

「うわぁ、青春……めっちゃ読みたい」

「……ほんと?」

ベッドの上に座る雄大が膝を抱えながら、自信なさそうに伺ってくる。

「ほんと、ほんと」

「でね。幼馴染だから、思い切ったデートコースとかに誘うのが恥ずかしくて誘えないんだけど、修学旅行とかで水族館とかに行けたら、こっそりデート気分を味わえたりするのかなって思って。……それで、なんか水族館に行ったのが結構昔だし、1人だと男同士でも胸がキュンとする場面ってのがあんまり想像できなくて。……だから一緒に行ってくれない?」

いつも「朝起こして」とか「ご飯作って」とか図々しく頼ってくるのに、こういうときだけ恐る恐る聞いてくるのはずるい。

「いいよ。前に俺も手伝うって約束したしな」

「へへっ。ありがと」

ベッドの上で目尻に皺を浮かべて笑う雄大をみると、胸の奥がほわっと暖かくなる。

「じゃあ、雄大。今週末にでも行こう」

「うん。ありがとう。楽しみ」

今度こそ、雄大の書く作品の良さが伝わればいいなと思った。