俺は、今まで味わったことのない感情を味わいながら、教室へと戻った。教室の後ろの扉の入り口、小澤が心配そうな顔で俺を出迎えてくれた。

「大丈夫か!? 星原!」
「あ、うん。ごめんね。心配かけて」

けれども、俺を見る視線は、なんだかひそひそしている感じだ。「全校集会中に倒れて心配している」という感じとはまた違った感じ。なんというか、噂の渦中にいる人、という感じだ。

「……、俺、何かまずいことした?」
「あー……」

 小澤はそっと俺に耳打ちする。

「多分、その、さっき、貴公子が、お姫様抱っこで、体育館から星原のこと運んだから噂になってるんだと思う。星原と小澤、どんな関係なのか、って」
「お、お姫様、抱っこ!?」

 小声で耳打ちしてくれた小澤の気遣いを無碍にするかのように俺は大声を出してしまう。周りの注目が一気に俺に向かう。

「そうだよ。お前のことを華麗なお姫様抱っこで運んで、生徒全員どよめいてた。城崎先輩もすげー顔してたよ……」
「…………!!?!??!?!?」

 俺は思わずその場にうずくまってしまった。興奮と恥ずかしさと照れ、という感じで。

「星原!? 大丈夫か!? また、具合悪くなったのか……!?」
「……、大丈夫」

 俺は首を振る。具合は悪くない。けれども、この照れは、随分と長い間、引きそうにはなかった。