24話
「ずっと話さないといけないと思っていたんだ」
そう言って、一ノ瀬は凛月の目を見つめる。
窓の外からは軽音学部の軽快な音楽が聞こえてくる。後夜祭が始まったようだ。
「昨日、どうしてmoonが凛月だと気付いたかって聞いてきたよね?」
凛月は小さく頷いた。
「ああ、今話す時なんだって思った」
そうして一ノ瀬は凛月に近づき抱きしめる。その体は小さく震えている気がした。
「ねえ、凛月。好き、すごく好き。大好き」
「……うん」
凛月はそっと一ノ瀬の背中に手を回した。
「凛月と成海は、まったく違う。そう分かってる。でも――成海がいなかったら、たぶん俺は、凛月のことに気づけなかった」
凛月は目を伏せたまま、静かに耳を傾けていた。
――この人も、いろんなものを背負ってきたんだな。
それでも、自分の言葉で向き合おうとしてくれている。
凛月はどこか遠くでそんなことを考えていた。
「この話を聞いても、好きでいてくれる?」
凛月はゆっくり一ノ瀬から離れる。そして顔を上げてその目を見た。
「一ノ瀬が好きだよ」
それは、確かに凛月の中から出てきた言葉だった。
「ずっと、俺だけを見ていてほしい。一ノ瀬のことを独り占めしていたいし、その手で触れてほしい」
自分の中の醜いドロドロとした感情。それは恋と呼ぶには美しくない感情かもしれない。でも、そんな気持ちを抱くのは一ノ瀬だけだ。
「成海さんのこと、驚いた。一ノ瀬にとってきっと大切な人だったんだなって思う……勝てないかもしれないって、少し思った」
一ノ瀬は目を閉じて申し訳なさそうに首を振る。違う、そういう顔をさせたいわけではない。
凛月は言葉を続けた。
「でも、俺はここにいて、これからも一ノ瀬と一緒に瞬間を重ねていきたい、そう思ってる」
一ノ瀬と、未来を向いて生きていきたい。凛月はそう思っていた。
「……わかった」
そう言って、一ノ瀬は凛月の頬に手を添えた。
手のひらは思ったよりもずっと冷たくて、凛月の体温と溶け合うような心地がした。
そして優しく唇を重ねた。今この瞬間、一ノ瀬が想いを寄せている相手は凛月自身だ。それはたしかことだと、痛いほど伝わる。
胸の奥につかえていたものが、ほどけていく。
やっとちゃんと繋がれたような気がしていた。
○
一ノ瀬の指先が凛月のシャツのボタンをひとつ、またひとつと留めていく。
凛月はそれを見ながら、小さく息を吐く。
「……ありがとう」
「うん」
小さく応えると、一ノ瀬は一番上のボタンを留めて、そっと手を離した。
カーテンの隙間から光が差し込んでいた。そろそろ後夜祭が終わる頃だろうか。
凛月が、ぽつりと呟いた。
「高校出たらさ、一人暮らししようかなって、思ってるんだ」
一ノ瀬は目を丸くする。
「……えっ、急にどうした?」
「そしたらさ……一緒に住めたらいいな、って……」
驚きで固まる一ノ瀬を見て、凛月は慌てて続けた。
「……いや、でも、弟もいるかもしれないし、進路だってまだちゃんと決めてないし、だから……その、すぐじゃなくて、ただの話で……!」
焦る凛月の手を、一ノ瀬はそっと握る。
そして、静かに言った。
「……じゃあ、これから二人でゆっくり考えていこう」
その声は優しくて、確かで、未来を照らすようだった。
凛月は目を細めて、小さく「うん」と頷いた。
この先一ノ瀬とどんな未来を見ることができるだろうか。凛月は初めて先のことを楽しみだと感じていた。
凛月は一ノ瀬の手を握り返す。この手は離さない、そう心に決めるのだった。
「ずっと話さないといけないと思っていたんだ」
そう言って、一ノ瀬は凛月の目を見つめる。
窓の外からは軽音学部の軽快な音楽が聞こえてくる。後夜祭が始まったようだ。
「昨日、どうしてmoonが凛月だと気付いたかって聞いてきたよね?」
凛月は小さく頷いた。
「ああ、今話す時なんだって思った」
そうして一ノ瀬は凛月に近づき抱きしめる。その体は小さく震えている気がした。
「ねえ、凛月。好き、すごく好き。大好き」
「……うん」
凛月はそっと一ノ瀬の背中に手を回した。
「凛月と成海は、まったく違う。そう分かってる。でも――成海がいなかったら、たぶん俺は、凛月のことに気づけなかった」
凛月は目を伏せたまま、静かに耳を傾けていた。
――この人も、いろんなものを背負ってきたんだな。
それでも、自分の言葉で向き合おうとしてくれている。
凛月はどこか遠くでそんなことを考えていた。
「この話を聞いても、好きでいてくれる?」
凛月はゆっくり一ノ瀬から離れる。そして顔を上げてその目を見た。
「一ノ瀬が好きだよ」
それは、確かに凛月の中から出てきた言葉だった。
「ずっと、俺だけを見ていてほしい。一ノ瀬のことを独り占めしていたいし、その手で触れてほしい」
自分の中の醜いドロドロとした感情。それは恋と呼ぶには美しくない感情かもしれない。でも、そんな気持ちを抱くのは一ノ瀬だけだ。
「成海さんのこと、驚いた。一ノ瀬にとってきっと大切な人だったんだなって思う……勝てないかもしれないって、少し思った」
一ノ瀬は目を閉じて申し訳なさそうに首を振る。違う、そういう顔をさせたいわけではない。
凛月は言葉を続けた。
「でも、俺はここにいて、これからも一ノ瀬と一緒に瞬間を重ねていきたい、そう思ってる」
一ノ瀬と、未来を向いて生きていきたい。凛月はそう思っていた。
「……わかった」
そう言って、一ノ瀬は凛月の頬に手を添えた。
手のひらは思ったよりもずっと冷たくて、凛月の体温と溶け合うような心地がした。
そして優しく唇を重ねた。今この瞬間、一ノ瀬が想いを寄せている相手は凛月自身だ。それはたしかことだと、痛いほど伝わる。
胸の奥につかえていたものが、ほどけていく。
やっとちゃんと繋がれたような気がしていた。
○
一ノ瀬の指先が凛月のシャツのボタンをひとつ、またひとつと留めていく。
凛月はそれを見ながら、小さく息を吐く。
「……ありがとう」
「うん」
小さく応えると、一ノ瀬は一番上のボタンを留めて、そっと手を離した。
カーテンの隙間から光が差し込んでいた。そろそろ後夜祭が終わる頃だろうか。
凛月が、ぽつりと呟いた。
「高校出たらさ、一人暮らししようかなって、思ってるんだ」
一ノ瀬は目を丸くする。
「……えっ、急にどうした?」
「そしたらさ……一緒に住めたらいいな、って……」
驚きで固まる一ノ瀬を見て、凛月は慌てて続けた。
「……いや、でも、弟もいるかもしれないし、進路だってまだちゃんと決めてないし、だから……その、すぐじゃなくて、ただの話で……!」
焦る凛月の手を、一ノ瀬はそっと握る。
そして、静かに言った。
「……じゃあ、これから二人でゆっくり考えていこう」
その声は優しくて、確かで、未来を照らすようだった。
凛月は目を細めて、小さく「うん」と頷いた。
この先一ノ瀬とどんな未来を見ることができるだろうか。凛月は初めて先のことを楽しみだと感じていた。
凛月は一ノ瀬の手を握り返す。この手は離さない、そう心に決めるのだった。
