彩る君に恋をする

23話

 そこからの展開は、まるでジェットコースターみたいだった。
 気づけば一気に距離が縮まっていて、自分でも戸惑うくらいだった。

 初めて凛月にメイクをさせてもらった日は、興奮で一睡もできなかった。
 想像していた以上に、凛月は可愛かった。
 儚くて、綺麗で、ほんの少し照れたように目を伏せる姿が、妙に胸に刺さった。

 次はどんなメイクが似合うだろう。
 どんな色が、この肌に映えるだろう。

 そんなことを考えている自分に、一ノ瀬は思わず心の中で拳を振るった。
 どうして「次」があると思ってるんだ。
 凛月の気持ちや都合は、何も聞いてないくせに。浮かれてる場合じゃないだろ、と。

 ふとmoonのアカウントを見ると、メイクの様子が上がっていた。
 それは凛月自身も楽しかったと思ってくれているようで、心が浮き足立つのがわかった。
 相変わらずmoonのアカウントをフォローする勇気は出ない。
 それでも、投稿が更新されていないか、こっそりチェックしてしまう。
 まるで片思い中の中学生みたいで、自分でも笑えてくる。

 こんなふうに距離を保ったまま満足してるなんて、我ながら情けないし、女々しいにもほどがある。
 だからこそ。
 凛月に告白して、付き合えることになったときは、夢でも見ているようだった。

「……俺も、一ノ瀬が好き」

 あのときの凛月の声が、何度も頭の中で繰り返される。
 震えるように小さなその言葉が、胸の奥深くに染み込んでいく。

 1年生の春からずっと、ただ見ていることしかできなかった相手。
 その人と、気持ちが通じ合った。そんなこと、奇跡みたいな話だと本気で思った。
 そっと触れた唇のやわらかさは一生忘れたくないと一ノ瀬は思った。

 しかし、一ノ瀬はうすうす気づいていた。凛月が、何かを抱えたまま笑っていることに。

 せっかくの放課後デートなのに、マスクをつけたままだった。
 最初は「男同士でいるのが恥ずかしいのかな」と、軽く考えていた。
 いつか、そういうの全部取っ払って、笑い合えるようになればいい。
 そんなふうに、のんきに構えてさえいた。

 けれど、

「……もし、俺がメイクしてなかったら、普通に過ごしてたら……一ノ瀬は、俺のこと、好きだった?」

 その問いに、一ノ瀬の心はざわついた。

 凛月のことは、ずっと見ていた。
 メイクをしているかどうかなんて、関係ない――そのはずだった。
 でも。

 ――成海と、似ていなかったら?

 一ノ瀬が凛月を目で追うようになったのは、彼が成海に似ていたからだった。
 じゃあ、もし成海に似ていなかったら、自分は同じように凛月に惹かれただろうか。

 その問いは、胸の奥の澱みをかき回す。

 ――自分は、本当に、今目の前にいる凛月を見ているのか?

「……何でそんなこと聞くの?」

 気づけば、問い返していた。
 咄嗟に出たその声は、どこか頼りなくて、自分でも不安になるほどだった。

「凛月は、俺の気持ちも、好意も、そんなに信じられないの?」

 声にしてから、自分でも驚いた。
 そして、気づいたときには、もう凛月にキスをしていた。

 強引に、答えを求めるみたいに。または、確かめるように。

「今は……ちょっと、無理。ごめん」

 その言葉で我に返る。……最低だ。
 なんで、こんなことをしてしまったんだ。
 凛月を不安にさせたくなかったはずなのに、自分のせいで彼は不安がっている。
 その事実がどうしようもなく苦しかった。