彩る君に恋をする

22話

 2年生のクラス分けが発表された日、一ノ瀬は名簿を見て一瞬、息が止まった。
 佐野凛月。その名前が、自分と同じクラスにあった。

 どうせ、これからも話すことなんてないんだろうと諦めていた。
 なのに、同じクラス。一ノ瀬は心の中でガッツポーズを決めた。

 同じころ、一ノ瀬はコスメのレビューを調べるためにSNSを見ていた。
 目に留まったのは、とあるアカウント――moon。

 儚げで中性的なアイコンと文体。
 その投稿のひとつ。
 写り込んだ背景のフェンスと植え込みに見覚えがあった。学校近くの公園だ。
 どうやら、moonは近所に住んでいるようだ。
 
 いや、それどころじゃない。一ノ瀬は投稿写真を前のめりで見つめる。
 投稿された手の写真、指先の形。部分的に写った顔のパーツの雰囲気。
 どこか、凛月に似ている。

 「まさか」と思う気持ちと、「そうだったらいいのに」という願いが入り混じる。
 でも、まだ確信は持てない。

 そんな中で、あの事件は起きた。文化祭の買い出しを凛月に頼んでいる女子たちが視界に入った。

「優しいって言われるの、そんなに嬉しい?」

 あれは、自分でも予想外だった。
 別に怒っていたわけじゃない。ただ、都合よく凛月に頼る女子たちに我慢できなかっただけだ。

 凛月は、誰にでも優しい。断れない。顔色をうかがって、自分のことを後回しにする。
 それが、見ていて苦しくなるくらいだった。

 だから、言いたかったのは女子たちへの苦言だ。
 けれど、気づけば凛月自身を傷つけるような言葉になっていた。
 あのときの、固まったような凛月の表情が、ずっと頭から離れなかった。

 ……最低だ。
 自分でも嫌になるくらい後悔した。
 だから、その翌日、一ノ瀬は凛月の机に向かって話しかけた。

「これ。一本当たったから、いる?」

 無理やり用意したジュースを差し出す手は、少し震えていた。
 凛月は一瞬驚いたような顔をしたけど、そっと受け取って「ありがとう」と小さく笑った。
 そのとき、サイドポケットに入っていたリップがちらりと見えた。

 あれは、moonが投稿してたやつだ。
 あの限定のロゼリップ。間違いない。
 まさか――。そう思って一ノ瀬はカマをかけてみる。

「俺さ――前からちょっと、気になってたんだけど。佐野って、写真撮るの好きなの?」

 凛月の動きが、ぴたりと止まった。
 少しの沈黙。
 それから、凛月がこちらを見て、静かに言った。

「……どのアカウント?」

 その声は震えていた。
 しまった。これはおそらく当たりだ。moonは凛月だと思って間違いないだろう。
 もしかしたら脅しのように聞こえたかもしれない。そう思って、一ノ瀬はすぐに慌てて言葉を重ねた。

「別に、バラす気はないよ」

 そして、正直な気持ちを口にした。

「でも、あのメイク、似合ってると思う」

 それは、何ひとつ嘘のない本心だった。
 だから、屋上まで凛月が探しにきてくれた時は心底びっくりした。
 だからついうっかり、舞い上がった心のままにメイクをさせて欲しいとお願いしてしまったのだ。