15話
「……湊さんはただの知り合いだから。誤解しないで」
凛月が慌てて釈明すると、一ノ瀬は歩みを止めた。そして、くるりと向き直る。
その表情は真顔だった。
「だったとしても、あんなふうに触られたらムカつく」
――ああ、これは。
嫉妬だ、と凛月は気づく。
少し呆れて、でも同時に胸が少しだけ高鳴った。
「大丈夫。好きなのは、一ノ瀬だけだから」
その一言で、険しかった表情がふっと緩む。
しかし次の瞬間、一ノ瀬は凛月の手を取ると再び歩き出した。
凛月は慌てて、ついて並ぶ。
「まだ休憩時間残ってるよな。屋上下の踊り場、行こう」
「え?」
「人目、ないから」
耳元で囁かれ、頬が一気に熱くなる。
凛月は小さくうなずき、引かれるままに廊下の角を曲がった。
立ち入り禁止の札がかかる階段をのぼり、屋上手前の踊り場へとたどり着く。
「ここ、入っちゃダメって書いてあるよ……見つかったら、先生に」
「うるさい」
呟きが遮られた。背中を壁に押し当てられる。目の前に一ノ瀬の顔があった。
「……で、何? さっきの男」
低く、押さえた声。壁際に押しやられた凛月は、身動きが取れないまま返事をする。
「だから湊さんはただの知り合いで……」
バン、と壁に手をつかれる。
至近距離でぶつかる視線。凛月は言葉を失う。
「ずっと我慢してた。だけどもう無理だって思った」
じっと凛月を見つめるその目には、焦りのような、怒りのような、どこか子どもじみた苛立ちが滲んでいるようだった。
「それと、これ」
一ノ瀬は凛月の制服のポケットに手を伸ばした。
「えっ、ちょっと」
ポケットに入れていたのは紙の束。さっきまでに無理やり渡された連絡先が、全部一ノ瀬の手に収まる。
「これも、全部没収」
表情は笑顔だが、目は全く笑っていない。
「別に……俺ほしいって言ったわけじゃないし」
一ノ瀬はしばらくじっと凛月の顔を見ていたが、やがて目を伏せてため息を吐いた。
「……俺、余裕ないんだわ」
ぽつりとこぼしたその声に、凛月は驚いていた。
「凛月が誰かに見られてるってだけでイライラする。自分でもびっくりするくらい、俺、ダメだわ」
普段は何でもそつなくこなす彼が、今はこんなにも揺れている。
それは初めて見る姿だった。
「……そんなの、俺のセリフだよ」
凛月は小さく笑って、そっと手を伸ばす。一ノ瀬の胸元をつまんで、ぐっと引き寄せる。
「今日ずっと思ってた。一ノ瀬が他の誰かに好かれたらどうしようって」
「は? なんで?」
素っ頓狂な声に、凛月は思わず吹き出した。
凛月は思わず、ぷっと吹き出した。
この男は自分のこととなるとどうやら無自覚なようだ。
「ねえ、一ノ瀬。俺のこと、好きって言ったの、嘘じゃないよね」
「バカ。何回言わせんだよ」
ほんの少しだけ余裕が戻ったような笑顔で一ノ瀬は返す。
そうして触れるだけのキスを軽くした。
「……もっとしたいとか思ったけど、今日はやめとく」
「……え?」
「服、崩したくないだろ。せっかく可愛くしてんのに」
それって――。
思わず凛月は顔を赤らめた。
そして、一ノ瀬はそっけない手つきでポケットに手を突っ込み、さっきの紙束を差し出した。
「ほら、返す。でも、連絡取ったら怒るから」
だったら最初から捨ててくれればいいのに。
そんな不器用な気遣いに、凛月はくすっと笑って、それを受け取った。
「わかったよ。全部、自分でちゃんと断る」
そして、今度は自分からもう一度キスをした。
そっと触れる唇に、言葉にはしなかった気持ちを込める。
――もっと触れたい、もっと一緒にいたい。そう思ってるのは、一ノ瀬だけじゃないよ。
「……湊さんはただの知り合いだから。誤解しないで」
凛月が慌てて釈明すると、一ノ瀬は歩みを止めた。そして、くるりと向き直る。
その表情は真顔だった。
「だったとしても、あんなふうに触られたらムカつく」
――ああ、これは。
嫉妬だ、と凛月は気づく。
少し呆れて、でも同時に胸が少しだけ高鳴った。
「大丈夫。好きなのは、一ノ瀬だけだから」
その一言で、険しかった表情がふっと緩む。
しかし次の瞬間、一ノ瀬は凛月の手を取ると再び歩き出した。
凛月は慌てて、ついて並ぶ。
「まだ休憩時間残ってるよな。屋上下の踊り場、行こう」
「え?」
「人目、ないから」
耳元で囁かれ、頬が一気に熱くなる。
凛月は小さくうなずき、引かれるままに廊下の角を曲がった。
立ち入り禁止の札がかかる階段をのぼり、屋上手前の踊り場へとたどり着く。
「ここ、入っちゃダメって書いてあるよ……見つかったら、先生に」
「うるさい」
呟きが遮られた。背中を壁に押し当てられる。目の前に一ノ瀬の顔があった。
「……で、何? さっきの男」
低く、押さえた声。壁際に押しやられた凛月は、身動きが取れないまま返事をする。
「だから湊さんはただの知り合いで……」
バン、と壁に手をつかれる。
至近距離でぶつかる視線。凛月は言葉を失う。
「ずっと我慢してた。だけどもう無理だって思った」
じっと凛月を見つめるその目には、焦りのような、怒りのような、どこか子どもじみた苛立ちが滲んでいるようだった。
「それと、これ」
一ノ瀬は凛月の制服のポケットに手を伸ばした。
「えっ、ちょっと」
ポケットに入れていたのは紙の束。さっきまでに無理やり渡された連絡先が、全部一ノ瀬の手に収まる。
「これも、全部没収」
表情は笑顔だが、目は全く笑っていない。
「別に……俺ほしいって言ったわけじゃないし」
一ノ瀬はしばらくじっと凛月の顔を見ていたが、やがて目を伏せてため息を吐いた。
「……俺、余裕ないんだわ」
ぽつりとこぼしたその声に、凛月は驚いていた。
「凛月が誰かに見られてるってだけでイライラする。自分でもびっくりするくらい、俺、ダメだわ」
普段は何でもそつなくこなす彼が、今はこんなにも揺れている。
それは初めて見る姿だった。
「……そんなの、俺のセリフだよ」
凛月は小さく笑って、そっと手を伸ばす。一ノ瀬の胸元をつまんで、ぐっと引き寄せる。
「今日ずっと思ってた。一ノ瀬が他の誰かに好かれたらどうしようって」
「は? なんで?」
素っ頓狂な声に、凛月は思わず吹き出した。
凛月は思わず、ぷっと吹き出した。
この男は自分のこととなるとどうやら無自覚なようだ。
「ねえ、一ノ瀬。俺のこと、好きって言ったの、嘘じゃないよね」
「バカ。何回言わせんだよ」
ほんの少しだけ余裕が戻ったような笑顔で一ノ瀬は返す。
そうして触れるだけのキスを軽くした。
「……もっとしたいとか思ったけど、今日はやめとく」
「……え?」
「服、崩したくないだろ。せっかく可愛くしてんのに」
それって――。
思わず凛月は顔を赤らめた。
そして、一ノ瀬はそっけない手つきでポケットに手を突っ込み、さっきの紙束を差し出した。
「ほら、返す。でも、連絡取ったら怒るから」
だったら最初から捨ててくれればいいのに。
そんな不器用な気遣いに、凛月はくすっと笑って、それを受け取った。
「わかったよ。全部、自分でちゃんと断る」
そして、今度は自分からもう一度キスをした。
そっと触れる唇に、言葉にはしなかった気持ちを込める。
――もっと触れたい、もっと一緒にいたい。そう思ってるのは、一ノ瀬だけじゃないよ。
