彩る君に恋をする

13話

 家のドアを開けると、電気のついたリビングからすぐに母の声が飛んできた。

「凛月! 何時だと思ってるの!?」

 玄関に立つ凛月を見て、母は腕を組んだまま立ち上がる。目は怒っているけれど、少し赤くなっているのがわかった。心配していたのだろう。

 「……ごめん、連絡できなくて」

 靴を脱ぎながら、凛月は静かに言う。

「また夕飯も作らずに、勝手に出ていって。何があったのかは知らないけど、あなたって子は!」

 苛立ちと疲れが混ざった母の声を、凛月は遮る。

「俺、もういい子はやめるから」

 母は言葉を止める。凛月は顔を上げて、真正面から母を見た。
 母の顔をしっかり見るのは久しぶりだった。

「母さんの顔色見て言うこと聞くだけの、都合のいい子どもはやめる。ちゃんと、自分の考えで動くようにする。それが気に入らないなら、怒ってくれていい」

 母はなにも言わなかった。ただその場に立ち尽くし、凛月を見つめていた。
 凛月は何も言わずに頭を下げ、自室へ向かう。
 すると、部屋の前に小さな影が座っていた。

「千秋……起きてたの?」

 弟は、パジャマ姿のまま不安げに凛月を見上げていた。

「……母さん、怒ってた。兄ちゃん、家出しちゃったのかと思った」

 凛月はそっと千秋の頭に手を置いた。

「ねえ、千秋。父さんと暮らしたいって思う?」

 唐突な質問に、千秋はきょとんと目を瞬かせた。

「……兄ちゃんと一緒がいい」
「そっか。ありがとう」

 小さく微笑んで、千秋の肩に手を回す。
 母親とのこと、すぐに全部解決できるわけじゃない。
 でも、弟のためにも少しずつ変えていかないといけない。凛月は小さくため息をついた。