二
ありきたりなデートスポットではあるけれど、水族館に行くことになった。これも啓が行ったことがないという理由が含まれてはいるが。朝ドアを開けたとき、開いた口がふさがらなかった。いつにも増してかっこいい服装の啓が立っていたからだ。全力で惚れさせてみろなんて後から考えたらかなり恥ずかしい台詞を言った気がするが、まさかまず見た目から変えてくるなんて。
「お店で全部コーディネートしてもらったんだ」
これまでもダサいわけじゃなく、シンプルでかっこよかった。しかしそれを凌駕すると思う。プロがコーディネートするとこんなに個人の魅力を引き出せるものなのか。今日めっちゃかっこいいじゃん、と素直な感想を述べると、切れ長の目を細めてありがとうと一言。
「隼太も素敵だよ。隼太と水族館行くの楽しみで眠れなかった」
この間の話し合いまで俺を避けていたのが嘘みたいに口説き文句みたいなものがでてくる。よく恥ずかしげもなく言える。でも、あまり嫌な気持ちはしなかった。
水族館は屋内で涼しいからちょうどいいと思っていた矢先、夏休み終了二日前なのにと言うべきかだからというべきか、館内は人でごった返している。遊園地と同様に家族連れが多く、幸せそうな顔を見ているとほんの少しだけ寂しい気持になった。これは何かと考えてみるも、寂しさの正体を探し出せそうにない。顔を横に向けると、啓がガラスにへばりつく勢いで魚を見ている。
今はチンアナゴに夢中だ。
「チンアナゴ、好き?」
「好きっていうか、存在自体はもちろん知ってたけど、やっぱり蛇みたいな形の動物が立ってるみたいに水の中で泳いでるのが面白い」
考えたこともなかったけど、言われてみれば確かにそうだな。ただ可愛らしいということしか感じたことがなかった。
混雑のせいで館内ルートは流れるように進み、あっという間に出口についてしまった。解散はまだしないだろうけれど名残惜しい。外は快晴で、館内の静けさや暗さが嘘みたいだ。外にも水槽やイルカショーの見られるイベントスポットがあるが、とりあえず昼食をとることにした。水族館と言うこともあり、メニューが大分子供向けのように見える。こうして注文する品を選んでいると一か月前の遊園地を思い出す。皐月のことを話した。きっとあの時啓はもう俺のことが好きで、俺が皐月を好きかどうか聞きたかったのだろう。それで結局お試しで恋人をやっているんだから人生って読めない。
俺はまぐろカツカレー、啓はまぐろ丼を頼んだ。水族館で魚料理って、罪悪感が湧いてくる。
「どう、水族館楽しかった?」
「うん、初めて見る魚ばっかりで見ていて飽きない。それに隼太と一緒にこうして来られたってことが何より嬉しいかな。好きな人と一緒ならどこも楽しい」
さらりとこういう発言をするところに驚かされる。でも直球過ぎてこちらが恥ずかしいから、これは俺を惚れさせるという点においては失策な気もする。
「恥ずかしいから、無理にそういう言葉使わなくてもいいから」
啓も恥ずかしかったようで、そう、と赤い顔で答えた。
「でも、本心だから」
真剣な眼差しでそういわれると胸の奥がこそばゆくなる。
啓はより深い質問を投げかけてくるようになった。
「でもどうして三か月の猶予なんて設定したの。男を好きになったことあるの?」
「うーん、ないけど、女子も好きになったことないし。まだわかんないじゃん」
「女の子と恋愛するのと、男と恋愛するのは違うんだよ? 男とだったら、日本じゃ結婚もまだできないし、それに子供もできない。隼太は子供が欲しいと思わないの?」
子供。さっき家族連れを見た時に感じた寂しさにやっと気が付いた。男同士では、子供はできない。でも、好きな人が隣にいる。それでいいじゃないかと俺は思う。寂しさを感じてしまった俺が言えることではないけれど。
「俺は・・・・・・どっちでもいいかな」
「・・・・・・そう」
小さい頃は俺もいつか所帯を持つのかななんて想像をしていた。だけれど、今俺が子供が欲しいと言ったら啓を深く傷つけてしまうような気がしたので口を紡ぐ。こうやって啓に対して考えながら発言している時点で、俺も何かしら友情以上に想っているのかもしれない。
その後はお土産を見た。俺は今日来てくれたお礼としてチンアナゴのキーホルダーを啓に渡した。自分用にもおそろいと思われない程度に別の種類の魚のキーホルダーを買った。俺からのプレゼントを手にした啓は、ありがとう、とはにかむ。
「一生大事にする」
「大げさだよ」
本気、と言っていそいそと鍵に付け始めた。出先で買った物を持つことで恋人感が増している気がするけれど、友達でも一緒にキーホルダーを買ったりするし。俺が好きにならなかったら、もう会わない。自分で提案したことなのに、友達でいられなくなってしまうのが辛い。
帰り際、啓は「ありがとう。隼太のこういうところが好き」と言いながらキーホルダーを揺らした。面と向かって言われるのはやはり心臓に悪い。
ありきたりなデートスポットではあるけれど、水族館に行くことになった。これも啓が行ったことがないという理由が含まれてはいるが。朝ドアを開けたとき、開いた口がふさがらなかった。いつにも増してかっこいい服装の啓が立っていたからだ。全力で惚れさせてみろなんて後から考えたらかなり恥ずかしい台詞を言った気がするが、まさかまず見た目から変えてくるなんて。
「お店で全部コーディネートしてもらったんだ」
これまでもダサいわけじゃなく、シンプルでかっこよかった。しかしそれを凌駕すると思う。プロがコーディネートするとこんなに個人の魅力を引き出せるものなのか。今日めっちゃかっこいいじゃん、と素直な感想を述べると、切れ長の目を細めてありがとうと一言。
「隼太も素敵だよ。隼太と水族館行くの楽しみで眠れなかった」
この間の話し合いまで俺を避けていたのが嘘みたいに口説き文句みたいなものがでてくる。よく恥ずかしげもなく言える。でも、あまり嫌な気持ちはしなかった。
水族館は屋内で涼しいからちょうどいいと思っていた矢先、夏休み終了二日前なのにと言うべきかだからというべきか、館内は人でごった返している。遊園地と同様に家族連れが多く、幸せそうな顔を見ているとほんの少しだけ寂しい気持になった。これは何かと考えてみるも、寂しさの正体を探し出せそうにない。顔を横に向けると、啓がガラスにへばりつく勢いで魚を見ている。
今はチンアナゴに夢中だ。
「チンアナゴ、好き?」
「好きっていうか、存在自体はもちろん知ってたけど、やっぱり蛇みたいな形の動物が立ってるみたいに水の中で泳いでるのが面白い」
考えたこともなかったけど、言われてみれば確かにそうだな。ただ可愛らしいということしか感じたことがなかった。
混雑のせいで館内ルートは流れるように進み、あっという間に出口についてしまった。解散はまだしないだろうけれど名残惜しい。外は快晴で、館内の静けさや暗さが嘘みたいだ。外にも水槽やイルカショーの見られるイベントスポットがあるが、とりあえず昼食をとることにした。水族館と言うこともあり、メニューが大分子供向けのように見える。こうして注文する品を選んでいると一か月前の遊園地を思い出す。皐月のことを話した。きっとあの時啓はもう俺のことが好きで、俺が皐月を好きかどうか聞きたかったのだろう。それで結局お試しで恋人をやっているんだから人生って読めない。
俺はまぐろカツカレー、啓はまぐろ丼を頼んだ。水族館で魚料理って、罪悪感が湧いてくる。
「どう、水族館楽しかった?」
「うん、初めて見る魚ばっかりで見ていて飽きない。それに隼太と一緒にこうして来られたってことが何より嬉しいかな。好きな人と一緒ならどこも楽しい」
さらりとこういう発言をするところに驚かされる。でも直球過ぎてこちらが恥ずかしいから、これは俺を惚れさせるという点においては失策な気もする。
「恥ずかしいから、無理にそういう言葉使わなくてもいいから」
啓も恥ずかしかったようで、そう、と赤い顔で答えた。
「でも、本心だから」
真剣な眼差しでそういわれると胸の奥がこそばゆくなる。
啓はより深い質問を投げかけてくるようになった。
「でもどうして三か月の猶予なんて設定したの。男を好きになったことあるの?」
「うーん、ないけど、女子も好きになったことないし。まだわかんないじゃん」
「女の子と恋愛するのと、男と恋愛するのは違うんだよ? 男とだったら、日本じゃ結婚もまだできないし、それに子供もできない。隼太は子供が欲しいと思わないの?」
子供。さっき家族連れを見た時に感じた寂しさにやっと気が付いた。男同士では、子供はできない。でも、好きな人が隣にいる。それでいいじゃないかと俺は思う。寂しさを感じてしまった俺が言えることではないけれど。
「俺は・・・・・・どっちでもいいかな」
「・・・・・・そう」
小さい頃は俺もいつか所帯を持つのかななんて想像をしていた。だけれど、今俺が子供が欲しいと言ったら啓を深く傷つけてしまうような気がしたので口を紡ぐ。こうやって啓に対して考えながら発言している時点で、俺も何かしら友情以上に想っているのかもしれない。
その後はお土産を見た。俺は今日来てくれたお礼としてチンアナゴのキーホルダーを啓に渡した。自分用にもおそろいと思われない程度に別の種類の魚のキーホルダーを買った。俺からのプレゼントを手にした啓は、ありがとう、とはにかむ。
「一生大事にする」
「大げさだよ」
本気、と言っていそいそと鍵に付け始めた。出先で買った物を持つことで恋人感が増している気がするけれど、友達でも一緒にキーホルダーを買ったりするし。俺が好きにならなかったら、もう会わない。自分で提案したことなのに、友達でいられなくなってしまうのが辛い。
帰り際、啓は「ありがとう。隼太のこういうところが好き」と言いながらキーホルダーを揺らした。面と向かって言われるのはやはり心臓に悪い。
