外での撮影会が始まるようで、皆玄関に集まってきている。靴を取り出そうと下駄箱の扉を開けると、シンプルな手紙が入っていた。表には、壮麗な字で俺の名前が書かれている。この字には見覚えがある。二年前からずっと好きだった字。裏を見ても差出人の名前はない。封を切る手が震え、はさみがないのも相まって開け口が汚くなる。中から出てきた便箋には「卒業おめでとう。ずっと好きです」と、宛名と全く同じ字で書かれている。
「隼太」
「皐月、どうしたの」
急いで玄関から出て行こうとしたところで皐月に話しかけられた。他の人たちはもう外に出てしまい、周りには誰もいない。
「私、隼太が好きです。無理なのはわかってるけど最後に聞かせて。私と付き合って」
「ごめん、俺好きな人がいるんだ」
「・・・・・・知ってる、ごめんね、引き止めちゃって。写真撮影行こうか」
寂しげに笑った皐月がこちらに近づき、俺の手中の手紙に気づく。
「なーんだ。勝ち目無しじゃん! 早くおっかけなさいよ」
一目見て啓からだと気づいた。涙声で冗談ぽく言うから、どんな反応をしていいかわからない。皐月の潤んだ瞳を見つめていると、
「ほら! 私はいいから! 愛しの王子様のとこに行け! 鈍感バカ!」
と背中を叩かれた。靴を履いて駆け出す。
写真撮影なんてどうでもいい、早く行かないと。クラスメイトが呼びかけるのもお構いなしに校門まで一直線に走る。綺麗な花のついたブレザーを押しのける、息が切れないのはなんでだろう、俺こんなに走るの得意だったっけ。後ろから大声が聞こえてくるが、声の主はわからない。帰ったら先生に怒られるだろうな。変な高揚感と、啓に追いつかなきゃという使命感で何も聞こえない。高校の通学路で全力疾走なんてしたことなかった。案外楽しいもんなんだな。どれくらい走ったか覚えてないが、目の前に何度も記憶に焼き付けた後ろ姿がある。
「啓!」
俺の声にビクッと反応し、啓が走り出す。なんで逃げるんだよ。しかし、ずっとアクセル全開の俺には勝てなかった。啓の腕を強く握りしめた。
「だめだよ」
「なにが」
「普通の家に戻ってよ」
「啓を好きなことが俺の普通だし、皐月の父親は説得した!」
「それは親に言われて知ってる、でも、」
その後の言葉は紡がれない。すすり泣く音にかき消される。そっと啓に触れてみるとかすれた声で「戻って」と言われる。絶対に戻らない。震える身体を後ろから抱きしめると、すすり泣きは激しさを増した。こんな背丈のある男がめそめそ泣いてるなんて傍から見たら面白そうだななんて考えごとをしてしまうくらいには余裕がある。
「啓が好きだから啓とずっと一緒にいたい」
「・・・・・・俺も、好き」
啓の手がそっと俺の手に触れる。こちらに振り返った啓の顔は思ったより酷かった。鼻水も出ている。ぽろぽろ零れる涙を拭って、そっと唇を重ねた。三度目のキスは甘酸っぱい。
「隼太」
「皐月、どうしたの」
急いで玄関から出て行こうとしたところで皐月に話しかけられた。他の人たちはもう外に出てしまい、周りには誰もいない。
「私、隼太が好きです。無理なのはわかってるけど最後に聞かせて。私と付き合って」
「ごめん、俺好きな人がいるんだ」
「・・・・・・知ってる、ごめんね、引き止めちゃって。写真撮影行こうか」
寂しげに笑った皐月がこちらに近づき、俺の手中の手紙に気づく。
「なーんだ。勝ち目無しじゃん! 早くおっかけなさいよ」
一目見て啓からだと気づいた。涙声で冗談ぽく言うから、どんな反応をしていいかわからない。皐月の潤んだ瞳を見つめていると、
「ほら! 私はいいから! 愛しの王子様のとこに行け! 鈍感バカ!」
と背中を叩かれた。靴を履いて駆け出す。
写真撮影なんてどうでもいい、早く行かないと。クラスメイトが呼びかけるのもお構いなしに校門まで一直線に走る。綺麗な花のついたブレザーを押しのける、息が切れないのはなんでだろう、俺こんなに走るの得意だったっけ。後ろから大声が聞こえてくるが、声の主はわからない。帰ったら先生に怒られるだろうな。変な高揚感と、啓に追いつかなきゃという使命感で何も聞こえない。高校の通学路で全力疾走なんてしたことなかった。案外楽しいもんなんだな。どれくらい走ったか覚えてないが、目の前に何度も記憶に焼き付けた後ろ姿がある。
「啓!」
俺の声にビクッと反応し、啓が走り出す。なんで逃げるんだよ。しかし、ずっとアクセル全開の俺には勝てなかった。啓の腕を強く握りしめた。
「だめだよ」
「なにが」
「普通の家に戻ってよ」
「啓を好きなことが俺の普通だし、皐月の父親は説得した!」
「それは親に言われて知ってる、でも、」
その後の言葉は紡がれない。すすり泣く音にかき消される。そっと啓に触れてみるとかすれた声で「戻って」と言われる。絶対に戻らない。震える身体を後ろから抱きしめると、すすり泣きは激しさを増した。こんな背丈のある男がめそめそ泣いてるなんて傍から見たら面白そうだななんて考えごとをしてしまうくらいには余裕がある。
「啓が好きだから啓とずっと一緒にいたい」
「・・・・・・俺も、好き」
啓の手がそっと俺の手に触れる。こちらに振り返った啓の顔は思ったより酷かった。鼻水も出ている。ぽろぽろ零れる涙を拭って、そっと唇を重ねた。三度目のキスは甘酸っぱい。
