六
学校生活を疎かにしない程度に啓を探し続けた。啓の実家、働いていた喫茶店、皐月、誰に話を聞いてもこれといった手掛かりを掴めず打つ手がない。俺の啓大捜索はいつの間にか学年中に轟いており、何人かの生徒が啓の目撃情報をくれた。その場所に行ってみだが、どれも空振りだ。目撃情報は元からそこまで当てにはしていないから、落胆も少ない。ただ啓を見つける糸口がほんのわずかでも欲しいがために小さな糸にも食らいつく。
今年は、全ての行事に高校生活最後という言葉が付いてくる。大学も同じ人が多いからあまり寂寥感はない。俺は啓が隣にいたらいいのにと思うだけだ。
「はい、チーズ! お、いい笑顔じゃん。次は私たちの撮って」
修学旅行が始まってからずっとハイテンションを維持している皐月には疲れというものが無さそうだ。この輝きに当てられて俺も口角が上がる。班も部屋も比較的仲のいい人たちで組めたから、変な乗りの人たちの中に入った中学時代よりずっと楽しい。周りも笑顔が絶えない。修学旅行という気分が浮かれる行事だから、ちょっとしたことでも笑ってしまう。
それでもふと、楽しいと思った後に寂しさがこみあげてくる。啓もここにいたらもっと楽しいのではないか。俺の隣でポーズを決めて写真を撮っているはずじゃないか。
「隼太さーん? また啓のこと考えてるんですかー? お顔が暗いですよ」
皐月がおどけた口調で聞いてくる。その言葉にみんなが笑う。
俺が婚約者でなくなった時から皐月はふっきれたように見える。みんなの前で啓のことをいじるようになった。啓のことを躍起になって探しているという噂が流れてからは、皐月と俺がカップルいじりをされることも減ってきた。
「ただここにいたらいいなって考えてただけだよ」
「お熱いですね」
今この瞬間が楽しくないと言えば嘘になる。それでも、啓なしで楽しんでいる自分を直視できないでいる。
去年よりも早く時が過ぎ去っていく。することが何もないと、啓のことを考えてしまう。あれから啓と会わずに年越しを迎えた。相変わらず全く居場所を掴めないまま。でも、啓は自分の親とは連絡を取っているらしい。住んでる場所は教えてくれないけど、定期的に近況は知らせてくれるそうだ。俺にも連絡をくれればいいのに。啓とのトーク画面は、俺たちの関係がバレた時に俺が「ごめん」と送った時から変化がない。毎日、啓から連絡が来ていないか確認してから眠りにつくのが俺のここ半年の日課だ。
今は、夜風に吹かれながらスマホの画面を眺めている。真冬だというのに、風を浴びたくなった。お風呂で温まった体にはツンとする風が気持ちいい。
〈会いたい〉と打ち込んですぐに消す。既読はつかないとわかっているくせに、届かないメッセージすら送れない。もし既読が付いて、その上で無視されたら。
今日も、何もできずに一日が終わってしまった。俺は啓を探すという日々に慣れてしまった。そして見つからないということにも。
『啓に会いたい。触れたい。話したい。笑い合いたい。どんな生活をしてきたのか知りたい。転校先がどういうところか知りたい』
とりとめもなく、手紙とは程遠い、自分の中に渦巻く感情を書きだす。たまにこういうことをして感情を外に出してみているが、効果のほどはわからない。テレパシーとなって啓の脳内に直接送り届けられたらいいのに。
学校生活を疎かにしない程度に啓を探し続けた。啓の実家、働いていた喫茶店、皐月、誰に話を聞いてもこれといった手掛かりを掴めず打つ手がない。俺の啓大捜索はいつの間にか学年中に轟いており、何人かの生徒が啓の目撃情報をくれた。その場所に行ってみだが、どれも空振りだ。目撃情報は元からそこまで当てにはしていないから、落胆も少ない。ただ啓を見つける糸口がほんのわずかでも欲しいがために小さな糸にも食らいつく。
今年は、全ての行事に高校生活最後という言葉が付いてくる。大学も同じ人が多いからあまり寂寥感はない。俺は啓が隣にいたらいいのにと思うだけだ。
「はい、チーズ! お、いい笑顔じゃん。次は私たちの撮って」
修学旅行が始まってからずっとハイテンションを維持している皐月には疲れというものが無さそうだ。この輝きに当てられて俺も口角が上がる。班も部屋も比較的仲のいい人たちで組めたから、変な乗りの人たちの中に入った中学時代よりずっと楽しい。周りも笑顔が絶えない。修学旅行という気分が浮かれる行事だから、ちょっとしたことでも笑ってしまう。
それでもふと、楽しいと思った後に寂しさがこみあげてくる。啓もここにいたらもっと楽しいのではないか。俺の隣でポーズを決めて写真を撮っているはずじゃないか。
「隼太さーん? また啓のこと考えてるんですかー? お顔が暗いですよ」
皐月がおどけた口調で聞いてくる。その言葉にみんなが笑う。
俺が婚約者でなくなった時から皐月はふっきれたように見える。みんなの前で啓のことをいじるようになった。啓のことを躍起になって探しているという噂が流れてからは、皐月と俺がカップルいじりをされることも減ってきた。
「ただここにいたらいいなって考えてただけだよ」
「お熱いですね」
今この瞬間が楽しくないと言えば嘘になる。それでも、啓なしで楽しんでいる自分を直視できないでいる。
去年よりも早く時が過ぎ去っていく。することが何もないと、啓のことを考えてしまう。あれから啓と会わずに年越しを迎えた。相変わらず全く居場所を掴めないまま。でも、啓は自分の親とは連絡を取っているらしい。住んでる場所は教えてくれないけど、定期的に近況は知らせてくれるそうだ。俺にも連絡をくれればいいのに。啓とのトーク画面は、俺たちの関係がバレた時に俺が「ごめん」と送った時から変化がない。毎日、啓から連絡が来ていないか確認してから眠りにつくのが俺のここ半年の日課だ。
今は、夜風に吹かれながらスマホの画面を眺めている。真冬だというのに、風を浴びたくなった。お風呂で温まった体にはツンとする風が気持ちいい。
〈会いたい〉と打ち込んですぐに消す。既読はつかないとわかっているくせに、届かないメッセージすら送れない。もし既読が付いて、その上で無視されたら。
今日も、何もできずに一日が終わってしまった。俺は啓を探すという日々に慣れてしまった。そして見つからないということにも。
『啓に会いたい。触れたい。話したい。笑い合いたい。どんな生活をしてきたのか知りたい。転校先がどういうところか知りたい』
とりとめもなく、手紙とは程遠い、自分の中に渦巻く感情を書きだす。たまにこういうことをして感情を外に出してみているが、効果のほどはわからない。テレパシーとなって啓の脳内に直接送り届けられたらいいのに。
