まずは、私たち人間が知らない『天界』と呼ばれる別世界について、お話ししましょう。

 大昔から、人間たちが生活している地上から(はる)か上にある、日本の高い高い空に、とても多くの神様が()んでいました。


 大半の神様は、雲の上にあるお屋敷(やしき)()らしていました。
 一方で、位の高い一部の神様は、〈高天原(たかまがはら)〉という空に()かんでいる小さな島です。私たちが知っている日本列島よりも、だい~ぶ(せま)くて、こぢんまりとした島国だそうです。


 そして、〈高天原(たかまがはら)〉には、人間が住む地上界と同じように、山や川などの自然もたくさんあるんです!

 一番位の高いアマテラスオオミカミ様の神殿(しんでん)の近くにある山には、白狐(しろぎつね)の親子が住んでいました。
 母狐(ははぎつね)には、五匹の子どもがいました。

 上の三兄弟と長女は親元を(はな)れて、ウカノミタマ様のお使いとして、地上で働いています。
 一方で、四男で末っ子の白狐(しろぎつね)はまだ幼いため、母親と一緒(いっしょ)に山で()らしています。



 ……令和◯年の春、四月。
 ある日の朝、末っ子の白狐(しろぎつね)は〈高天原(たかまがはら)〉の外に遊びに行きました。その白狐(しろぎつね)の名前は、木助(きすけ)といいます。

高天原(たかまがはら)〉の(はし)まで行くと、木助(きすけ)は大ジャンプをして、空に()け出しました。
 快晴(かいせい)の空を、木助(きすけ)は軽やかな足取りで走っています。木助(きすけ)が前に進んでいくと、何柱(なんちゅう)かの神様に出会いました。

 まずは、天神かつ学問の神である菅原道真(すがわらのみちざね)様が、雲の前のお屋敷(やしき)に立っているのに、木助(きすけ)は気が付きました。

道真(みちざね)さま~、おはよーごさいますっ!」

 木助は、道真(みちざね)様に大声で朝の挨拶(あいさつ)をしました。
 道真(みちざね)様は、「おはよう」とダンディーな(しぶ)い声で、木助(きすけ)挨拶(あいさつ)を返しました。

 ……と、木助(きすけ)は、道真(みちざね)様の横に()たジャージー牛の女の子も見つけました。

「あっ!! クルミちゃん、おっはよ~♪」

木助(きすけ)さん、おはようございますっ」

 道真(みちざね)様のお使いであるクルミちゃんにも挨拶(あいさつ)をすると、木助(きすけ)は再び(いきお)い良く走り出しました。
 その木助(きすけ)の後ろ姿を、道真(みちざね)様とクルミちゃんは温かい目で見送っているようでした。

木助(きすけ)さん、今日も元気ですね!」

「ふふ、そうじゃの」


 次に、木助(きすけ)が見つけたのは、小さな雲に()っている風神様でした。

 風神様は緑色の(おに)で、一つの角を持っています。
 一見、(こわ)そうなイメージがある(おに)ですが、彼は非常に明るくて気さくな神様です。

「風神様~、おはよございますっ!」

「おうっ、木助(きすけ)か!! おはよーさんっ♪」

 風神様は、木助に(さわ)やかに挨拶(あいさつ)をすると、何かの鼻歌を歌いながら()っていきました。


 その次に、木助(きすけ)が見つけたのは、風神様と同じように、小さな雲に()った雷神様でした。

「おはよーございます、雷神様っ!」

 雷神様は白色の(おに)で、二つの角を持っています。
 風神様とは違い、雷神様はシャイで()ずかしがり屋さんです。木助(きすけ)が雷神様に挨拶(あいさつ)をすると、雷神様は少し下を向いて、小さく片手を()げながら、無言の挨拶(あいさつ)をしました。

「……なんかカワイらしいなぁ~、雷神様」

 雷神様から(はな)れると、木助(きすけ)微笑(ほほ)みながら、そう(つぶや)きました。



 そうして元気いっぱいに空を()け回っていた木助(きすけ)でしたが、流石(さすが)に少し(つか)れてきたようでした。

 誰も()っていない雲を発見すると、すぐに木助(きすけ)は雲に()()ります。
 大欠伸(おおあくび)をした後に、木助(きすけ)はその場で丸くなって、ひと休みしました。


「あああぁ~、若葉お姉ちゃんに会いたいなぁ~。半年以上、顔を見れてないし……」

 木助(きすけ)がそう小さな声で(つぶや)いた時、風の精霊(せいれい)の女の子が木助(きすけ)の元にやって来ました。
 風の精霊(せいれい)は、無地(むじ)のハンカチを(かぶ)ったような半透明(はんとうめい)姿(すがた)をしています。

「……あ!! ユラちゃん、おはよ~」

「おはよう、木助(きすけ)くん。そーいえば最近(さいきん)偶然(ぐうぜん)ね……、わたし、若葉さんの職場(しょくば)を見つけたの。木助(きすけ)くんが行きたいなら、これから(おし)えよっか?」

「え、ホントッ!? 行きたい!!」

「なら、行こっ!」

 友だちである風の精霊(せいれい)のユラちゃんと一緒に、木助(きすけ)は地上に向かいました。
 木助(きすけ)はユラちゃんのあとを追って、少しずつ地上界に近づいていきます。



 すると、木助(きすけ)とユラちゃんが地上まで数十メートルのところまで来た時、思わぬことが起こりました。
 ちょうど木助(きすけ)とユラちゃんの間に、とてつもない強風がビューッと()いたのです!

「「わあぁぁぁぁぁー!!」」

 風神様が()かせた強風に当たり、木助(きすけ)とユラちゃんはだいぶ(はな)れてしまいました。
 ユラちゃんは遠くに()ばされてしまい、木助(きすけ)はすごいスピードで地上に落ちていきました……。