ボクの名前は纐纈広弥(こうけつ ひろや)
 清能町(せいのうちょう)にある山の(ふもと)に住んでいます。ちなみに、今は小学六年生で、来年からは中学生になるよ~。

 それで、中学校に入ったら、絶対に吹奏楽部(すいそうがくぶ)に入るって決めてるんだ! ボクはフルートを()くのが大好きだからっ。
 でね……、今の夏休み期間に、地域の音楽教室で九月に行われる発表会に向けて、必死で練習しているんだ。



 あっ! そーいや、夏休み最後の週に、家でフルートの練習をしている時、すっごくビックリするようなことが起きてね――
 二階にある自分の部屋で練習中に、たまに気分転換(きぶんてんかん)に、外のベランダでフルートを()くことがあるんだ。その時に、家の前に一頭のおサルさんがやってきたんだ!!

 そのおサルさんはね、ボクがベランダで、発表会用の童謡(どうよう)『大きな古時計』を練習していると、家の二階の方を見上げて、なぜかジーッとボクを見ていたんだ。
 そしたら、五分くらい経ったら、ボクの家から離れて、山の方向に帰っていったみたい……。


 ……なんだけどねっ! そのおサルさん、それからボクがベランダでフルートの練習をしている時に、毎日のように来るようになったんだっ。土砂降(どしゃぶ)りの日はさすがに来なかったけど、小雨の日は来てたかな。

 あとね、だんだんボクの家の前に座り続ける時間が、少しずつだけど長くなっていた気がするんだよね~。最初は数分だったのが、十分、十五分、二十分……って増えていった!


 ああーっ。時々なんだけど、おサルさん……、ボクが練習している途中(とちゅう)で、座ったまま目を閉じていることもあったね。どっかの県で温泉に入っているのを、テレビで見た時のと何だか似ていたなぁ~。
 山で遊び(つか)れてひと休みしてるのかな、って一瞬思ったけど、ボクが練習しているのを()いているようにも見えたしね。


 それとねっ、ひとつ気が付いたことがあって! おサルさんは毎回帰る時に、ボクの家の横にあるちっちゃな神社に向かうんだ。『ウズメ神社』ってとこ……。

 そんな感じで、日課みたいにボクの家の前に来ていたおサルさんは、来月にフルートの発表会がある日の前日まで来ていたんだっ。



 そして、九月下旬の発表会……。
 珍しくっ、ボクはノーミスでフルートを吹き終えましたぁ~! いつも以上にリラックスしてたような……??

 さらにね、音楽教室に通い始めてから、高学年の部で、初めて金賞を取ることもできましたっ!! 今まで銅賞を取ったことも無かったから、思わずその場で男泣きしちゃった……。


 発表会が終わって、家に帰って来た後、ボクは家族全員に金賞をもらったことを報告したよ。一番応援(おうえん)してくれて、(だれ)よりも(よろこ)んでくれたおじーちゃんは、ポロポロと涙をこぼしていた。

 泣き(くず)れていたおじーちゃんを見ていられなくて、感謝の言葉と一緒(いっしょ)に、あのおサルさんのこともひと通り話してみたら、おじーちゃんは泣くのを止めて、やさしく微笑(ほほえ)んだ後、こー言ったんだ!

「そうか……、(さる)が帰っていった、うちの横にある神社か。あの神社は『宇豆芽(うずめ)神社』って言ってな、芸能の神様をお(まつ)りしているんじゃよ。聞いたことは無いんだけど、その(さる)はアマノウズメ様の眷属(けんぞく)、だったりするのかな……? (さる)がアマノウズメ様に、ヒロくんがすごく努力してたってことをお伝えして、()()()()()()()()()()()()()()()()のかもね」



 (くわ)しいことまでは理解できなかったけど、ちょっとだけね……おじーちゃんの考えが分かる気がした。目に()えない()()()()が、発表会でフルートを()いている時、なるべく緊張(きんちょう)しないように、そっと背中を()してくれた気がしたのを()っすらと思い出したから。


 発表会の次の日は日曜日だったから、ボクの学校はお休みだった。
 初詣(はつもうで)じゃないけど、特に予定が無かったから、ボクは午前中に『宇豆芽(うずめ)神社』に行ってみたよ!

 鳥居をくぐる時に(はし)っこでお辞儀(じぎ)して、手水舎(てみずしゃ)に行ったんだけど、コロナの関係で使えなかったみたい……。
 それで、ボクは真っ直ぐに神社の御本殿(ごほんでん)の前に行った。お賽銭(さいせん)を入れたら、二礼二拍手(にれいにはくしゅ)をして、ボクは目を閉じた。

(今度の発表会、金賞はキビシーかもしれないけど、引き続きいー成績(せいせき)がとれますようにっ。
 ……じゃなくてっ、いー成績(せいせき)がとれるよーに、これからも練習をがんばります!! そして、いつもありがとうございますっ)

 (ねが)いごとは口に出さなくていい。心の中で(つぶや)くなら、自分の抱負(ほうふ)と感謝の言葉を神様に伝えるんだって!
 最後は一礼をして、ボクは参拝(さんぱい)をし終えた。



 それとね。町の図書館にある本で調べてみたら、神様のお使いのサルは『勝運』、つまり勝負に強くなるよーに助けてくれる、って書いてあったよ~。

 ボクの家の前に来たサルが、神様のお使いかどうかは分からないけど、またボクの練習を聞きに来てくれると(うれ)しいなっ♪


〈『夏の終わり、秋のキセキ』おしまい〉

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【お話の補足】
 「猿は、アマノウズメのお使いかも」というのは、完全な創作です。
 また、お猿さんのご利益は『勝運』よりも『魔除け』の方が有名だそうです。


 それから、お話の中に出てくる図書館の本ではありませんが、下記の書籍を参考にさせて頂きました。

 『神社のどうぶつ図鑑』
     監修  茂木貞純
     発行所 株式会社 二見書房
     印刷  株式会社 堀内印刷所
     製本  株式会社 村上製本所