午前4時半。今、君は笑えていますか?


 現在時刻午前四時。

 早朝のランニング。高校一年生からの毎日の日課だ。
 今は高校三年生。陸上部に入っており、夏に最後の大会を控えている。
 中学の頃は教室の隅で本を読んだり勉強してたりしていたいと思い、周りからは陰キャだと茶化されていた。
 食べることが好きで、食べてはずっと座って勉強する生活だったために気付けばお腹が大きく膨らんでいた。

 高校に入学。痩せるために親に陸上部に入れと言われ、仕方なく入った。それでも、気付けば楽しくなっていた。
 陸上部に入り、100m走をすることになった。一人で走ることができるのは人見知りな自分にとって救いだったのだ。

 そんな中、昨日、転機が訪れた。とても良い転機だ。
 陸上部のリレーの選手に選抜された。
 嬉しかった。
 ただ、一つ懸念点があった。
 陸上部の誰一人とも仲が良くないのだ。嫌われているわけではないだろう。ただ、自分から話しに行けないのだ。
 リレーはチームワークだ。コミュニケーションが取れなければ成立しない、それは自分が一番わかっていた。
 でも、こんなチャンス二度とない。高校最後の大会。優勝で終わりたい。

 毎朝、午前五時。高校一年生からこの時間から走り始めていた。
 でも、昨日から焦りが増してきた。
 努力を怠れば、チームが優勝できない。
 昨日のリレーのメンバーでの話し合いを思い出す。
 彼らとはで生きている世界が違うと思ってしまうほど、あまりにも大きな違いを感じている。彼らの中に混じり走るということがまだ、信じられなかった。

「ひとまず、基礎練習を続けて、そこから個々の実力を見ていこう。そして、走順を決めていくというのでいいんじゃないか」

 三年一組の学級委員をしているしっかりものの多沢(たざわ)壮翔(そうと)が口を開いた。学力も運動神経も上の上。その上顔が良く、スタイル抜群でとてつもなく女子からの人気が高い。1500mを得意としている。

「そうだな。目標はどうする」

「そりゃ、絶対優勝っしょ!!」

 陸上部の部長、勝沼(かつぬま)陽加(ようか)とムードメーカーの槙浦(まきうら)優冴(ゆうご)が順に口を開いた。
 勝沼は陸上の実力が断トツだ。どの種目も容易くこなす。中学では100mだったようだが、高校はハードルを選んだ。男子人気が半端ない。校内の男子の憧れの存在となっている。
 槙浦はどこに行ってもムードメーカー、自分とかけ離れた存在。走高跳を得意としている。高く跳んでいるところに自分は、追いつけない。
 この三人は、部活内で最も足が速い。自分はその三人のあとについているということだが、三人と自分は別世界に住んでいるようなほどに違う。
 全く、違うんだ。

「ルイは、どう思う? やっぱ、優勝したいよね?!」

 槙浦が問いかけてくる。


 ルイ


 自分の名前。普段は誰からも呼ばれないから本当に自分への問いかけなのかすら疑ってしまう。
 呼んでほしいと思っていた人からも呼ばれなかったこの名前。あまり、好きじゃない。

「あぁ、。やるからには、優勝、、したいよな」

 久々に人と話した。授業で指名され、発言するときは言葉が詰まらない。なのに、こうして対面するのには、慣れない。

「よし、決定!! 目標は、絶対優勝!!」

「良いんじゃないか。だいぶ幼い目標だが」

「こういう目標で良いんだよ。Simple is best. 目標は高くあるべきだ」

 テンポ良く決まっていく目標。やはり、彼らと自分は全く違う。

 本当に、走れるのだろうか。


 不安は募るばかりで、それをかき消すためだけに、走っている。
 普段より一時間も早い。こんなに早い時間に走っているのは初めてだ。まだ街灯がなければ辺りは真っ暗だ。月が頼りない。
 人気がまったくない。そりゃそうだ。まだ大半が眠っている。
 眠っている街。
 今ここにいるのは一人だけ。
 そう思えるのがせめてもの救いだった。気楽であった。
 いつもと同じ道なのに、景色が全く違う。

 暗い。

 いつも感じるはずの清々しさがないんだ。
 闇を感じるだけだ。
 今日は。




 いつもと、違う。