あぁ、また飲んじゃった。

罪悪感をかき消すために、まだ日の昇らない街へ出る。

空は真っ暗でどうも朝には見えない。

視界は霞んでいて、全ての輪郭は二つになっていて、ちょっとおかしい。

誰とも共有できない世界。

それを、歩いている。

街灯はまだついている。

朝には見えない。

店は閉まっている。

朝には見えない。

ラーメン屋。

準備中だって。

光が漏れている。

朝に見えるかも。

ラーメン。

食べたいかも。

でも、今食べたら。

戻しちゃうかも。

それはもったいない。

やめておこう。

目的地はない。

ただ進む。

帰りたくない。

だから歩く。

怒られたくない。

反対の道を行こう。

薬を飲んでしまうことは悪いこと?

それは悪くない。

たくさん飲んでしまうのは?

悪いこと。

でも、自分は?

飲んでしまう。

たくさん。

いつも結局家に着いている。

帰りたくないのに。

部屋に入る。

薬のシートが散乱している。

いつものこと。

隠すために黒い袋に詰めては学校に行くとき、途中のゴミ箱に捨てている。

それは悪いこと?

心配かけたくないからしているだけ。

悪くない。

オーバードーズを繰り返して早二年。

既に大抵の量では症状が出なくなっていた。

ちゃんと、痛みがあったのに。

なのに。

もう今は、痛みはない。

ただ、フラフラするだけ。

ただ、視界がおかしくなるだけ。

ただ、まともに思考ができなくなるだけ。

酔っているようだ。

痛みを感じたいが故に飲んでしまう。

ますます量が増える。

なのに。

痛みはない。

腕を傷つけようか。

そうすれば、内部の症状はなく、痕だけが残る。

でも、痕が残るのが嫌なんだ。

誰かに心配かけるとか、迷惑かけるとか。

それが一番嫌い。

誰かの人生の荷物になりたくない。

存在すら、彼らの残ってほしくない。

生きたいからする、オーバードーズ。

でも、それが見つかったら。

相談したら。

気遣わせちゃったら。

それは生きたいからするのではなく、誰かを失うためにするものに必然的になってしまう。

自分がしたくなくても。

そうなってしまうんだ。

自分は心が弱い。

だから、この世から消える勇気はない。

心が強い人は。

刺激を与えてしまったら、消えていくかもしれない。

だから怖い。

空の色が。

ほんの少しずつ明るくなっている。

紫と青の中間みたいな色。

綺麗だな。

あぁ、クラクラしてきた。

誤魔化すためにその場に座り込んだ。

歩きたいのに、もう動けない。

視界は歪みだして、形を失っていて、かなりおかしい。

誰とも共有できない世界。

それを、眺めている。

街灯はまだ必要だ。

朝には見えない。

店は閉まっている。

朝には見えない。

学校。

閉じられたままの門。

まだ開かない。

朝に、なればいいのに。

学校。

早く行きたい。

だって、朝になったら家に着き、登校できる。

友達に会える。

私にとっての生命線。

待ち遠しい朝。

目的地はここなのだろう。

ようやく着いていた。

帰りたいと願ったのだろう。

朝に希望を持っていた。

酔いは朝になれば覚めるだろう。

いつもそうだ。

薬を飲んでしまうことは悪いこと?

それは悪くない。

たくさん飲んでしまうのは?

悪いこと。

でも、自分は?

飲んでしまう。

たくさん。

いつもなぜか家に着いている。

帰りたいけど、帰れない。

部屋に入る。

薬のシートが散乱している。

片付けるのは面倒だ。

でも、片付けないと知られて心配されるから隠すために帰ってくる。

それは悪いこと?

心配かけたくないからしているだけ。

悪くない。

大切な人には笑っていてほしい。

だから、隠れて薬を飲む。

他人中心の人生。

だから。

もう気付けば苦しくなっている

ただ、クラクラする。

ただ、視界が歪む。

ただ、まともに動けなくなる。

自分に酔っているのだ。

みんなを大切にしている自分に。

ますます苦しくなる。

なのに。

消えることはできない。

人を大切にせずに生きてみようか。

そうすれば、この苦しさは消え、きっと薬を飲むのが減るはず。

でも、それで大切な人の笑顔を消してしまうのは嫌なんだ。

もし、自分が起こした行動でその人が幸せになっていたのなら。

可能性を考える。

そう考えられてしまうから思考は変えられない。

未来は変えたくない。

大切な人を大切にするため、隠れてするオーバードーズ。

でも、それが見つかったら。

気遣わせちゃったら。

嫌われたら。

それは、全員を大切にするどころか全員の幸せを奪い去るものとなってしまう。

自分がしたくなくても。

そうなってしまうんだ。

自分は自己防衛ができない。

だから、方法が一つしかない。

自己防衛ができる人は。

様々な方法を持つのだろう。

だから、憧れる。

それの意味も奪いたくはない。

未来は、変わるよね。

生と消滅の狭間。

道がない。

あぁ、誰かがやってきた。

屈んで目を合わせてきている。

上手く把握できないけど、男性?のよう。

自分から見た世界はいま、ぐるぐると回っている。

誰とも共有できない世界。

それを、感じている。

街灯はもうすぐ必要ではなくなる。

朝、始まってほしい。

店は閉まっている。

朝、始まってほしい。

目の前にいる人。

誰なんだろう。

何か言っている気がする。

闇にかき消されてしまっている。

家。

帰らなきゃ。

だって、家族が起きてきて知られたら。

隠していた意味がなくなる。

学校での出来事なんて。

話せるわけがない。

友達と。

家族と。

笑いたいと願う。

朝に希望を持っている。

笑うことができれば。

辛い記憶は箱の中に閉じ込められる。

薬を飲むことは悪いこと?

それは悪くない。

たくさん飲んでしまうのは?

悪いこと。

でも、自分は?

飲んでしまう。

たくさん。

学校で不良に目をつけられている。

いじめられてるなんて、言いたくても言えない。

部屋に入れば。

薬のシートが散乱している。

片付けるのは面倒だ。

でも、片付けないと知られて心配されるから隠すために帰ってくる。

それは悪いこと?

心配かけたくないからしているだけ。

悪くない。

大切な人には笑っていてほしい。

だから、隠れて薬を飲む。

辛さをかき消すためのオーバードーズ。

だから。

もう気付けば胸が痛い。

ただ、嫌になる。

ただ、自分が嫌いになる。

ただ、自己嫌悪のループにはまっている。

自分を守るためなんだ。

消えていかないようにするため。

ますます苦しくなる。

自分は。

消えることはできない。

いっそのこと、消えてみようか。

そうすれば、この苦しさは消え、自分の知らないどこかへ行ける。

でも、それで大切な人の笑顔を消してしまうのは嫌なんだ。

自分といると笑ってくれる人がいて。

悲しいときは一緒に泣いてくれて。

不良に代わりに怒ってくれて。

優しいあの人たちのためには生きるしかないんだ。

守ってくれている人のため、隠れてするオーバードーズ。

でも、それが見つかったら。

傷付けたら。

嫌われたら。

それは、守ってくれている人のためではなく、傷付けるものとなる。

自分がしたくなくても。

そうなってしまうんだ。

自分は一人で抱え込んでしまう。

だから、方法が一つしかない。

一人で抱え込まない人。

誰かに相談できる人。

憧れる。

誰かに聞いてほしい。

目の前にいるあなたでいい。

声を、聞いてくれる?

ねぇ、あなたの名前、

教えてくれないかな?