……さて。たった数分間、垣間見たそれぞれの不思議な世界は、いかがでしたか?
 非日常への鍵は、いつもふとした瞬間に手にするものです。そうですね……たとえば、ほら、あなたが今その手に持っているこの書物、とか。

 もし、あなたにも非日常的な不思議な出来事が起きたなら、そっと僕に教えてください。いつでもここで、お待ちしておりますので。

 ……え? ああ、申し遅れました。僕は……この『本』そのもの。
 見聞きしたさまざまな不思議な話を糧として、物語として誰かに伝えるためにここに在るのです。

 あらゆる事象は、観測しなければ存在しないのと同じです。
 知らないからと存在自体を否定してしまうのは、あるいは初めからないものとして扱うのは、あまりにも可哀想ではありませんか?

 ですがご安心を。あなたは既に、この本を通じて観測者となりました。
 きっと非日常の方から、あなたに見つけて欲しくてやって来ることでしょう。不思議は存外、寂しがり屋なものですから。

 それでは、あなたが不思議な出来事と出会うその日まで、僕はしばし本棚で休ませていただきますね。
 すべての物語は、あなたと共に。またいずれ、非日常の中でお会いしましょう。