「特殊な武器というわけではなく、斬る瞬間に刀身に微量の霊力を纏わせているのだな。面白い。人間の武器でできた傷は通常なら一瞬で再生するが、その傷口から霊力を流しこまれるとそうはいかない。霊力の弱さを剣技という別の形で補っているわけか」
(っ、こちらの手が一瞬で見抜かれた)
冷たい汗がたらりと背中を伝う。
怖い。だけどそう思っているのを悟られないよう唇を固く結ぶ。
「どなたかは存じませんが、並みの妖ではないのは確かなようですね」
紫陽はさっと後ろに下がり、男から距離を取る。一度体勢を立て直し、深く息を吸った。
だが男は警戒する紫陽に対して面倒そうに肩をすくめた。
「何度も言わせるな。お前を害する気はない」
「っ、待ちなさい」
また大きく風が吹き、紫陽のそんな声は虚しくかき消される。
——そして、舞い上がった砂吹雪が治まる頃には、既に妖の姿はそこになかった。
すっと全身の力が抜けていくのがわかる。立ち向かうような態度を取ったものの、あの妖に勝つ未来はどう頑張っても見えなかった。交戦していたらまず紫陽の命は無かっただろう。
(……もうすぐ日が昇る。帰らなければ)
体力も気力も既に限界だ。
紫陽は足の震えを覚えながら、家への道を引き返すのだった。


