廊下を歩く微かな足音が少しずつ近づいてくるのが聞こえた。
その音は紫陽の部屋の前でピタリと止まる。
ためらいがちに扉が開かれた瞬間、紫陽は反射的に肩を跳ね上げた。
「狗神……様」
扉の向こうに立つ狗神は相変わらず鋭い眼光をしている。
二日連続で顔を合わせることになるとは。怯むなという方が無理だ……と思う紫陽だったが、隣の杏はずいぶんと朗らかな声を上げた。
「主、 楽しみなのはわかりますけどもう少し待ってくださいね!」
「……急ぐ必要はない」
素っ気なく返す狗神は、静かに腕を組みながら壁にもたれかかる。
「ええとあとは簪……うう、地味なのしかない! 買う物追加っ」
ぶつぶつ言いながら白いかんざしを手に取る彼女に、紫陽は恐る恐る尋ねる。
「あの、杏。もしかして……」
「はい! 町へは主と紫陽様のお二人で! 昨日は『主と一緒に町に行きませんか?』って言ったつもりだったんです。言葉足らずですみません」
「なっ……」
それは何と言うか……騙し討ちに遭った気分なのだが。
言葉を詰まらせる紫陽に、今度は狗神が眉間にシワを寄せる。


