白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



「知っていますよ」

「どうせこれまで人間の男どもにちやほやされてきたんだろうけど妖に通用するなんて自惚れも甚だし……は?」

「始めから、ただの人質のつもりで置いているのだろうと思っていましたよ。狗神様を籠絡するなんて考えもしませんでしたし、できるなんて思いません」

「なっ、口では何とも言える」


 そう言われてしまえばそこまでである。表情を自在に操ることがままならないので、涙ながらに「信じてください」と訴えるのも無理な話だ。

 そもそも、籠絡するという考えはなくとも、いつかどこかで反撃する機会があるかもしれないという考えはあったわけで。彼が紫陽を警戒すること自体正しい感覚である。

「あれ〜? 紫陽様どこいっちゃったんだろう? さっきまで一緒にいたんですよ?」


 目を逸らしたら負けとばかりに睨み合っていた紫陽と閏の方に、困ったような杏の声が近づいてきた。

 そちらを見ると、さきほどまで狗神と楽しそうに話していた杏が、今度は不安そうな表情であたりを見回していた。


「ちっ」


 閏は大きく舌打ちすると、紫陽からパッと手を離す。それと同時に、紫陽の手を拘束していた植物のつるが、風化するようにボロボロと崩れ消える。

 そして再び顔を上げた頃には、彼自身も姿を消していた。