その先には、談笑する狗神と杏の姿。
紫陽は思わず目を疑った。
(狗神様が……笑っている)
距離があるため内容までは聞こえてこないが、杏はいつものように……いや、いつも以上に明るく元気の良い笑顔で何かを話している。
それに対して狗神は、これまで紫陽が見てきた姿からは想像もつかないような優しい表情で杏を見つめていた。
紫陽ほどではないにせよ、狗神もあまり表情を動かさない印象だったので衝撃が大きかった。
「……杏の奴、昔からずっと主のこと慕ってんだよ」
「え……」
「主だって杏のことは間違いなく特別に思ってる。身内には多少優しい主だが、あそこまで優しい顔は杏にしかしない。立場があるからお互い言わねーだけで、誰が見ても相思相愛ってやつだろ」
閏は何となく面白くなさそうに、吐き捨てるように言う。
それから乱暴に紫陽の手首をつかみ、冷たい目を向けた。
「だから、いくら『花嫁』なんて地位を与えられたって、あんたに入り込む隙なんてねーよ。見初められたのを良いことに五大妖狗神を籠絡する……ってのが作戦だったかもしれないが残念だったな。あんたはどう足掻こうと人質以上の存在にはなれない」


