白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。



 聞き覚えのある男の声だった。

 ゆらりと姿を現した、短い赤髪に浅黒い肌をした男の妖。この地へ来た日に出会った、狗神の側近の一人。目尻は垂れているのに瞳に宿る光は鋭く、まっすぐ紫陽を睨みつけている。


「……確か、閏様とおっしゃいましたね。挨拶にしては多少荒っぽいようですが」

「大蜘蛛だ。名を呼ぶのを許した覚えはねえよ」

「そうですか。失礼いたしました」


 妖は基本的に信頼できる親しい間柄の者にしか名前を呼ばせず、力が強い妖ほどその傾向は強い。そういえばそんな話を涼風家にある文献で読んだことがあった。


「では、大蜘蛛様。手荒な真似をして、いったい私に何用でしょう」

「忠告しに来てやったんだよ」

「忠告?」


 再び縄のようなものが紫陽に向かって飛んできた。物理的なものではなく、以前見たものと同じ、閏の妖の術で生み出された植物のつるだ。避けようとはしたものの予想外の動きをし、そのまま紫陽の体へと巻き付いた。

 閏はそのつるを引っ張って紫陽を自分の元へ引き寄せる。必死に反撃の手段を考えたが、閏の目的は、紫陽に危害を加えるというのとは少し違ったらしい。


「見ろ」


 身動きが取れない状態の紫陽に、閏は指をさしながら言った。言われるがままに目を向ける。