杏は何故か陰陽師である紫陽に友好的だが、他の者はそうもいかないだろう。どちらかというと閏のように、警戒心をあらわにしてくる方が自然だ。
ただ嫌われているだけなら、涼風家でも似たようなものなので構わない。だが、もしそういう者たちが紫陽を排除しようと襲いかかってきたら。術を使えない紫陽は、刀を取り上げられている今抵抗さえできない。
「紫陽様? 大丈夫ですか?」
しかし、完全なる善意で提案してくれた杏にそんな不安を口にする気にもなれない。紫陽は彼女の問いかけに、「大丈夫です」とだけ静かに答えた。
わかっていたことだが、この城は本当に大きい。
紫陽が普段過ごしている部屋があるのは、広大な敷地にある建物の一つに過ぎない。初日に部屋まで連れていかれたときは、とても周囲の様子なんてまともに見る余裕がなかった。だから、目に入るもの全てが新鮮だ。広間に客間、大きな書庫に立派な武芸場などまである。
そして、途中何度か城で働いているらしい妖とすれ違ったりもしたが、紫陽の顔を見ても軽く頭を下げるだけで今のところ悪意を持って襲いかかられるようなことはない。これにもひとまず安堵した。


