真っ青な中に浮かぶ白い雲、やかましく鳴きながらどこかへ飛んでいく二羽の鳥、眩い日光にそよぐ風。
涼風家から歩いて数日程度の距離しかないのだから当然なのだが、妖の治める地にも今までと変わらぬ景色があるのが少し不思議な気分だった。
「それにしても主も主ですよねぇ。可愛い花嫁をこんなに放置するなんて。本人なりに考えがあるのはわかりますけど……」
「それは別に」
実際、狗神とは初日以来ほとんど顔を合わせていない。杏の前でとても口には出せないが、それに関しては少しホッとしている。
紫陽はゆっくり立ち上がると、杏が世話している植物を眺めようと彼女の方へ歩み寄る。と、ちょうど紫陽が真後ろに来たときに杏が振り返った。
その顔には楽しそうな笑顔が浮かんでいた。
「あ、そうだ紫陽様、良いこと考えました」
「え……?」
「今からこの城を探検しませんか?」
□
「紫陽様が今後末永く住まれる場所なんだから、本当はもっと早くご案内するべきだったのに! あたしってば馬鹿っ」
機嫌よくそんなことを言いながらずんずんと進んでいく杏の後ろを、紫陽は黙って歩いていた。
……正直あまり気乗りしていなかった。
ここに来てからきちんと顔を合わせたのは、狗神と閏、そして杏だけだ。


