白銀の妖王は、笑わない少女陰陽師を恋う。

□
・


 狗神の城へやってきてから十日ほどが経った。


(どうしよう、快適すぎて調子が狂う)


 紫陽は全く想像していなかった好待遇ぶりにかなり戸惑っていた。

 座敷牢のような場所にでも閉じ込められてもおかしくないと思っていたのに、与えられたのは実家の父の部屋より広い部屋。

 妖には当然敵として冷遇されると思いきや、身の回りの世話をしてくれる杏はずいぶんと優しく好意的。

 奴隷のように使われる覚悟もしていたのに、自分の部屋の掃除ですら「そんなことあたしがやりますから紫陽様は座っててください!」と止められてしまう始末。


(というか、むしろ暇)


 涼風家では仕事に追われ、鍛錬をし、見回りをして……と休む間もなかったので、時間を持て余すなど記憶の限り初めての経験だ。

 話し相手の杏がいない時間は、ぼんやりと庭を眺めるくらいしかすることがない。


「退屈ですよねぇ、紫陽様」


 庭の植栽に水を撒いていた杏が、紫陽の心の内を読んだように言った。


「杏が少しくらい仕事を手伝わせてくれたらここまで暇ではないですが」

「いけませーん。主の奥方様に下働きみたいな真似させられません!」


 すっかりそんなやり取りがお決まりになってしまった。紫陽は小さく息をつき、空を見上げる。